「ヤクザを排除した次は、どこだ?」ヤクザと家族 The Family 真中合歓さんの映画レビュー(感想・評価)
ヤクザを排除した次は、どこだ?
めちゃめちゃ良かった。宣伝は見かけなかったけど蓋を開けてみればA級のヤクザ映画で、もうアウトレイジなんかよりもよっぽど痺れたね。全然あらすじとか見てなかったからいつ中村が親分を裏切るんだろう?とか脇役かと思ったら市原隼人じゃねえか!ならこいつか!なんて思っていたりもした。
さて、本作はヤクザ映画なのだが、ちょっと特殊でより組織やその家族に焦点が当てられている。そして、それを20年以上の歳月で追いかける。
物語の前半では主人公の綾野剛がヤクザになり、そこからブイブイ言わせるまでの過程が描かれる。親分に従い、クラブの用心棒で、女は少し苦手という、”超テンプレなカッコつけヤクザ”が描かれるのだが、綾野剛の演技も相まって全く不自然じゃなく絵にも説得力が有った。この辺の映像も一級品で、決して安っぽさを感じさせずに楽しめてまずは安心出来たね。
そして中盤のある事件を境に状況は一変し、物語の後半からは14年の月日が流れた現代(2019年)へと移る。すっかりスマホ社会となり、何でもかんでもパシャパシャ撮ってネットの力に浮かれる若者と、時代に置いていかれた老人達。
そんな対比が妙にリアルで物悲しくて、スマホ世代なのになんか泣きそうになったよ。
ビシッとカッコよかった親分(舘ひろし)もすっかり老けて、寂れた事務所には昔からの幹部が数名と明らかな下っ端が一人という寂しい構成に。そしてその唯一の新顔である下っ端も何かシャっとない。
恐らく、まともな新規なんてもう居なくて精々フィクションの世界に憧れてきた変わり者くらいしか入ってこないであろうから、そういうちょっと全然輩系じゃない子が『自分も男を磨きたいっす!』みたいな感じで入ってきたんだろうなあとか想像しちゃうともうそこでも泣きそうになる(笑)。舘ひろし親分が優しい笑顔で迎え入れたんだろうなあとか思うと。。。
黒塗りの高級車を乗り回していた頃から、ワゴン車に乗って違法漁業でよく分かんねえ珍魚売る羽目になる落差。もうヤクザに限らず衰退した日本を感じるし、親を介護する時期になってきて店も閉めて昔の活況が無くなった商店街の家族みたいにも感じるし、なんかもう他人事じゃない気がしてきて胸が抉られたよ。
物語の後半では小さかった翼が商売を取り仕切っているのだが、結局はヤクザが居なくても同等の似たような輩達が仕切る事に変わりないわけで、むしろ顔が効いて名前も割れてるヤクザの方が必要悪だったんじゃないかとも思えてくる。海外勢力に対するアンチにもなるわけで。
結局は役割が変わるだけのゼロサムゲームだという事も匂わされているのが実にあっけない。そして、そんな奴らを相手にするのが”商売”の警察は捕まえる側なのに腰巾着のようだ。
全ては自然淘汰の結果であり、シバサキ組がただ負けただけなのだろうか?親分達に感情移入すると非常に悲しい話だが、結局はただの敗北者であり、むしろ一般人にとっては迷惑な存在でしか無い、という話だったのだろうか。
或いは、過ちを犯した者にチャンスを与えない日本の不寛容さを描いているのだろうか?役所を辞めさせられた由香のように、本当にヤクザがただ世間にとって邪魔な存在という以上に、日本の不寛容さを描いていたようにも思える。
飽く迄もヤクザが突出しているだけで、誰でもあのような状況に陥るよ、と。そう藤井監督は言いたかったのだろう。
果たしてヤクザの次は、どこだろう?