「親父から賢治へ、賢治から新たな世代へ、魅了し続ける漢たちのヤクザと家族の物語」ヤクザと家族 The Family 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
親父から賢治へ、賢治から新たな世代へ、魅了し続ける漢たちのヤクザと家族の物語
今年の1月~2月に公開された邦画の中で特に観たかったのが、本作と『すばらしき世界』。
なので、早めの配信リリースしてくれたNetflix、ありがとー!\(^^)/
本当は配信日に即見たかったのだが、仕事の都合もあったので、休日の今日、ゆっくり、ワクワクしながら。
率直な感想を。
いやもうこれ、傑作でしょ。面白い!
タイトルだけ見ればゴリゴリのヤクザ映画のように思えるが、そこに家族のような絆で結ばれていく男たちのドラマ。
その周りの者たち。
1999年、2005年、2019年、20年に及ぶ3つの時代の波が彼らを呑み込んでいく…。
もう最初の20分(99年パート)だけでヤラれた。
その日暮らし、自暴自棄に生きる青年、賢治。
ある時、柴咲組組長・柴咲の命を救う。
その後、あるヤクザと揉め、絶体絶命に陥っていた賢治を、柴咲が救う。
実父を覚醒剤で亡くした賢治。父親に対して憎しみにも似た複雑な感情。
“ケン坊”と愛称で呼び、優しい眼差しで孤独な青年に手を差し伸べる。父親として。
抑えていた感情を堪え切れず、泣く賢治。
賢治はヤクザの世界へ。柴咲と父子の契りを結ぶ。
ここでメインタイトル、『ヤクザと家族』。
巧い!
柴咲は昔ながらのヤクザ。(決して堅気の人には迷惑はかけない)
賢治を気に入ったのは、荒々しいけどその漢気ではなかろうか。
99年時代、柴咲らを前にしても臆する事無く、「ヤクザになんかならねぇ」。揉めたヤクザらに対しても、「柴咲なんか関係ねぇ」。
そして2005年パートのラストになるが、“家族”の為にある決断を下す。
ただのチンピラ同然から柴咲に育てられ、いっぱしの男に。舎弟も付き、組の中でのし上がっていく。
綾野剛がさすがさすがの名演。時代ごとに見事な演じ分け。哀愁も漂わせながら、その漢気っぷりにも惚れ惚れ。
刑事を引退して、ヤクザへ? 舘ひろしが優しさと人間味たっぷりに、素の本人のよう。そこに渋さとカッコ良さ、そして敵対ヤクザに舐められた時に発した凄みにしびれた! 舘ひろしにとってもここ近年ではBEST!
周りも個性派揃い。助演で圧倒的存在感を放つのが舘ひろしなら、巧演者は北村有起哉。組の若頭で、柴咲に可愛がられている賢治に嫉妬。かと思えば泣かせるシーンあり、哀しいシーンあり。
賢治の舎弟、市原隼人も良かった。
敵対ヤクザの豊原功補、駿河太郎、マル暴刑事の岩松了は憎々しく。
漢たちの世界に女は付き物。ヒロインは尾野真千子。賢治と恋に落ちる由香。ヤクザの男に惚れるからその筋の女かと思いきや、真面目に生きる普通の女性。それがまた哀しい。ヤクザの世界で生きる男と真っ当に生きる女性…。決して幸せになれない事は分かり切っている。
もう一人、存在感を発揮したあっと驚く人物が。これは後ほど。
2005年は賢治にとっては最も充実していた時期だったかもしれない。
組も安定。
親父からの信頼も厚く。
自分のシノギも上々。
女も出来。
全ては、親父に出会えたから。親父が全てを与えてくれた。
だから、親父の身に何かあったら俺が死んでも守る。
それは急襲だった。
親父は無傷だったものの、自分は負傷。舎弟の一人が犠牲に。
畜生…!
実は、こんなせいになったのも、全て自分のせい。
この少し前、敵対ヤクザと揉め事。それが偶々、昔揉めて因縁あったヤクザ。ここで暴力沙汰。
親父がわざわざ相手側と会って穏便に済ませようとするが…、決裂。
そのせいで親父は狙われた。
さらに、敵対ヤクザとマル暴刑事は結託している。
復讐は勿論、例え相手が挑発してきても手出しする事が出来ない。
時代は大きく変わった。もし、昔ながらのやり方を貫き通したら…?
法や警察だけじゃない。この社会からも徹底的に疎外される。
ヤクザがどんどん生きづらくなったこの社会…。
それでも、俺は…。
傷の癒えぬ身体で敵対ヤクザの元へ向かう賢治。
因縁あるアイツ。
しかしその時、思わぬ人物が!
“家族”を守る為、賢治は代わりとなってある決断をする。
賢治も親父も、彼らを取り巻く者たちも何を思ったか。
身代わり、愛する人との別れ。
親父の言動が忘れられない…「この親不孝もんが」と言って、初めて殴るのかと思ったが、抱き締める。“息子”との暫しの別れを惜しむように。
そして賢治は…くどくど語る必要もないだろう。彼の表情一つ、佇まい一つがそれを表している。
14年が経ち、出所。
2019年(令和元年)となり、浦島太郎の如く時代はさらに大きく変わっていた。
法も文化も何もかも。
ヤクザは勿論いるが、“昔ながら”のヤクザは片身が狭く。
14年ぶりに叩いた組を見て、賢治は愕然とする。
変わり果て、“辛うじてやっていってる”という言葉がぴったりなくらい今にも潰れそうも同然。
組員も親父と苦楽を共にしてきた幹部のみ。舎弟も足を洗った。
親父との再会。何処か弱々しい親父。実は、数年前に癌が見つかり、転移も。
シャバに出てきて、また“家族”と暮らせるのはいいが、これからどう生きていったらいいのか…?
久し振りに元舎弟と会う。また、かつて愛した由香とも再会する。が、厳しい言葉が投げ掛けられる。この時代、未だヤクザとしても生きる者への現実…。
同じヤクザはヤクザでも、上手くやってるのが時代の波に乗ったヤクザ。
言うまでもなく、敵対ヤクザ。
義理や人情や仁義などそんなくだらねぇもんはクソ溜めに棄て、金、シャブ、時代の欲するもので私腹を肥やす。
勿論、マル暴刑事とバッチリ手組み。
結局世の中裏で、こういう奴らがのさばるんだよなぁ…。
しかしここに、新たな世代が。
賢治がチンピラ時代から食わして貰ってた食堂の女主人(寺島しのぶも好助演)の息子、翼。
小さい頃はあんなに可愛く、勉強熱心だったのに、14年ぶりに再会したら、驚いた!
街の一角を仕切る若者集団のリーダー。裏社会の格闘技やナイトクラブで稼ぎもかなり。
演じた磯村勇斗がなかなか印象残す。
実は彼の父親は元柴咲組の組員。殺したのは敵対ヤクザ。
ある時敵対ヤクザから、稼ぎの良さから誘いを受ける。
拒否。その時、父親がコイツらに殺された事を察する。
一触即発に…。
親父が入院。
賢治が見舞う。
自分が癌転移した時点で、組解散を考えた事もあったという。
しかしそうしなかったのは、ヤクザの世界でしか生きられない“家族”の為。
でも、ケン坊、お前ならまだやり直せる。組を抜けろ。
きっと親父もこれを切り出すのは辛かっただろう。可愛い息子を手放すのは。だからだ。息子の為に。
賢治の反応が意外だった。「何言ってんだよ、親父! 俺はずっと一緒に居るよ!」…なんて言わなかった。きっと賢治も悟ったのだろう。これが親父の“遺言”だと。
組を抜けた賢治は由香の元へ。
由香には“14歳”の娘がいた。
母親の昔の恋人(?)として、3人で暮らし始める。受け入れる娘もスゲェ…。
元舎弟から仕事も紹介して貰う。
“家族”を抜けて出来た新たな“家族”。
幸せな時はその文字の如く、ほんのひと時。
今はSNS社会。その情報網、拡散力は時に背筋が凍るほど。
自分の仕事場はまだしも、由香の職場や娘の学校にもあっという間に知れ渡る。
元とは言え、反社会的組織に属していた者と関わりあった人物に対し、この社会は冷たい。
まあ、分からんでもない。もし、自分の前や周りにそういう人が居たら…? ビクッとしてしまう。
一度貼られた“ヤクザ”のレッテルはもう剥がせないのか…?
再会したのも束の間。一緒にはいられない。
そんな悲しい別れが起きたのは、自分だけではなかった…。(まさかこれが、あんな最後に繋がるとは…)
いよいよ翼が敵対ヤクザへ牙を剥く。
親父が危篤状態に。最期に会った賢治に掛けた言葉は…。
各々の運命に翻弄される者たち。
そして賢治も再び、ある決断を下す…。
これは、親父から賢治へ、賢治からある人物へ、3世代の家族の物語。
『新聞記者』が絶賛された藤井道人監督。
“ヤクザ”と“家族”を見事に融合させ、素晴らしい傑作を誕生させた。
本格ヤクザ映画の雰囲気たっぷり、男たちの悲哀もたっぷり、そこに包み込むような家族映画の優しさも感じる。
映像、編集、スタイリッシュでクール、センスも抜群。見応え充分!
しかもこれをオリジナル脚本で作ったのだから、いやはや本当に素晴らしい!
現時点で藤井監督のMY BEST!
そして今年見た映画の中でもダントツBEST!
何度も興奮し、胸アツ激アツ、ウルッとさせられたか!
劇中でのヤクザたちの末路は哀しい。
でも、今年の邦画の世界では!
本作があり、『孤狼の血2』もある!
まだまだヤクザたちが漢を魅せる!