「最初の30分をもっと丁寧に作ってください」ヤクザと家族 The Family デビルチックさんの映画レビュー(感想・評価)
最初の30分をもっと丁寧に作ってください
率直に言って、つまらなかったです。
共感できることが何もありませんでした。登場人物には魅力がないし、ストーリーも目新しさを感じない。中盤くらいで、もう映画館を出ようかと思いました。でも、まぁ、最後まで観ないことには感想も言えないと思いなおし、何とか最後まで観ました。
この映画の特徴的なのは、主人公の人生の3つの期間を切り出していることです。こんな感じでしょうか。
第1期)10代/ヤクザになるきっかけ
第2期)20代/由香との恋愛と敵対するヤクザの殺害(中村の代わりに罪を負う)
第3期)30代/刑務所から出てきてから現在まで
こういう構成を取ることで、ヤクザを取り巻く環境の変化をわかりやすくしているんですね。
しかしそれって、どうしてもぶつ切り感が出てしまいます。いきなり時間が飛ぶので、観客の気持ちがちょっと途切れるんです。
一本の映画の中に三本のストーリーがあるような構造になっているんですよね。だからひとつひとつのストーリーがどうしても薄くなってしまいます。
で、時間が飛んで気持ちの途切れた観客を映画の世界に引き戻すには、脚本や登場人物がよっぽど魅力的でなければならないのですが……僕には、そこまで脚本や登場人物が魅力的に映りませんでした。
序盤のストーリーを追います。
主人公のケン坊は、父親が覚醒剤中毒になった上、死に追い込まれたため、覚醒剤を嫌っています。家族を亡くして孤独になったこともあり、自暴自棄の荒れた生活をしています。そんなある日、覚醒剤の取引の現場を目撃します。ケン坊は売人からお金と覚醒剤を奪い、覚醒剤は海に捨ててしまいます。
一方、柴咲組の組長・柴咲は、元組員の妻が経営している飲食店に足繁く通っています。元組員は亡くなってしまっているので、店に通うことで妻を援助しているんですね。そこに敵対するヤクザ・侠葉会の組員が乗り込んできてピンチに陥りますが、たまたま居合わせたケン坊に命を救われます。
ケン坊が襲った覚醒剤の売人は侠葉会の息がかかった売人でした。そのため侠葉会に追われ、捕まってしまいます。絶体絶命のピンチとなりますが、たまたま柴咲の名刺を持っていたことから命を救われます。ケン坊は柴咲と盃を交わします。
ここまでが上に書いた3つの期間のうち、第1期の部分です。ここで観客の気持ちがちょっと途切れます。映画全体としては、起承転結の起が終わったところです。時間にすると4分の1が終わっただけ。しかし観客の気持ちの中には、一つのお話が終わった読後感みたいなものもあります。
つまり映画全体としてはまだイントロダクションが終わっただけなのに、部分的には映画が一本終わった印象があります。似た構成でうまくいったのは2018年にヒットした『カメラを止めるな』ですね。『カメラを止めるな』は最初の30分がゾンビ映画で、残りの時間は冒頭30分の裏側を描いていました。
で、『カメラを止めるな』の場合、最初の30分を完全に独立したものとして完結させようと意識して作られていたので良かったのですが、この『ヤクザと家族』の場合はおそらく最初の30分だけで完結させようと思ってないんですよね。つまり冒頭30分だけでお金が取れる、という作りになっていません。
この構成でこれだとしんどいです。ケン坊の人生から三つの時期を切り出した構成を取っているため、ぶつ切りにされた上、物語は薄まっています。ぶつ切り感をなくして観客の興味を持続させつつ、物語を薄く感じさせないように作らなければならないので、相当、難しいです。脚本や登場人物のパワーがめちゃくちゃ強くないといけません。
なので僕だったら、現在だけで構成しますね。刑務所から出てきたところからスタートして、回想を使って徐々に昔のケン坊や親分のこと、ヤクザを取り巻く環境の変化などが分かっていく展開にします。じゃないとケン坊に感情移入させることができません。
そして回想をどう使うかはめちゃくちゃ考えます。回想を一旦解体して組み直すとか、10代のところは青みの強い画面にして20代のところは赤みがかった画面にするとか。
まぁとにかくこういう3部構成を取るのなら、最初の30分が相当魅力的で完成されていないと、最後まで引きずっちゃうんですよ。で、その30分が薄くて魅力がないので、その時点で僕はもう飽きていて映画館を出ようかと思った、ということです。
ケン坊と親分が互いに惹かれていく過程がもっと丁寧に描かれていないと、死にかけているところを互いに救ってもらったというだけでは弱いんですよ。
だってヤクザって元々、死の危険とは隣り合わせじゃないですか。それにそもそもが行き場をなくした人たちの集まりでもあるわけだから、盃を交わした時点で全員、親分に人生を救ってもらっているわけですよ。なので命を救ってもらったとかはもはや前提にすぎず、そこからより一層絆を深めるのにどういうヤクザ人生を送ってきたかが大事なのに、そこが描かれてないんですよ。
由香との恋愛をあんなに時間割いて描かなくて良いんですよ。そんなの描いている暇があったら親分との関係を丁寧に描いてください。