「愛を求め続けた1人の男の生涯」ヤクザと家族 The Family さくらんさんの映画レビュー(感想・評価)
愛を求め続けた1人の男の生涯
この作品はただのヤクザの抗争、任侠映画ではない。ヤクザという世界に身を置いてしまった男の儚く、切ない1人の男の生涯を描いた作品である。
キャストの皆さん全員がそれぞれの役を全身全霊で演じていたのを感じた。舘さん、磯村くん、市原くん、北村さん、駿河さん…いやこれほどまでに1人でも欠けちゃ成り立たないストーリーも珍しいんじゃないかと思った。
この長い年月で全く変わらなかったのは工場の煙突の煙だけだった。そして、車の車種や携帯で時代の移り変わりを感じた。彼が生きた3つのそれぞれの時代の彼の目の輝き、映る景色の変化にも注目してほしい。
家族になりたかった。家族が欲しかった。でも、彼の踏み入れたヤクザの世界は簡単に元の真っ当な人間の世界には戻れない刻印が押されてしまうのだ。
なんて皮肉なことだろう。家族ができ、オヤジから大きな愛で包まれることで、彼は生きていくことができた。でもその世界に入ってしまったこらこそ、愛する女と娘と一緒にいることもできなくなった。自分を慕ってくれた仲間さえも不幸に陥れてしまった。
ヤクザから足を洗っても、この現実の世界は彼を受け入れてはくれない。自分の居場所はもうどこにもなかった。
3人で囲んだ朝食の食卓、それは彼の唯一の幸せな家族の姿だったに違いない。
山本賢治はヤクザで生きていくしか道はなかったのだ。でも、本当は幼い頃から強がっていてもきっと、愛を求め続けていたのだろう。素直になれなかったし、なれる場所もなかったのだろう。
救ってあげたかった。守ってあげたかった。包んであげたかった。millennium paradeのエンディングで一層、涙が溢れた。まるで、彼を讃えるレクイエムのようだった。