「家族が欲しかった男と、それを許さない社会の物語」ヤクザと家族 The Family shironさんの映画レビュー(感想・評価)
家族が欲しかった男と、それを許さない社会の物語
いわゆるゴッドファーザー的なヤクザの“ファミリー”だけではなく、様々な家族が描かれていました。
エンドロールで、よりテーマが強く浮かび上がる親切設計なので、最後まで席を立たずに余韻に浸って欲しい!
人生を踏み間違えた奴の再生物語はよくあるけれど、企業がコンプライアンス厳守で、反社チェックと公務員にピリピリしているこのご時世に、よくもまあヤクザ側にスポットを当てた映画を作ったもんだ。
ちょっとでも取り扱いを間違えたら大事故になりそうな領域に、わざわざ自ら斬り込むなんて!
『新聞記者』に続き、社会から抹殺されていく側の声なき声をすくい上げる、監督の漢気(おとこぎ)が胸熱。
しかも商業映画の規模で社会に噛みつく映画を撮れるのは、藤井監督ぐらいしか居ないのではなかろうか?
三つの時代が描かれますが、現代のパートに全てが繋がり集約されています。
行き場を無くしたヤクザ達は、人生をやり直す事もできない。
SNSで情報が拡散され、巻き込まれたくない者たちは、単純に“排除”を選択する。
もちろん反社会的勢力は、いて欲しくない存在だし、
いろんな権利を剥奪して「ああはなりたくない」と思わせる事も大切だけど、
社会的信用が無く、携帯も契約出来ずに、サウナにも行けない彼らは、いったい何処に居場所を見つければ良いのか?
結局は同じ世界から抜け出せず、巧妙に形を変えた犯罪が生まれるだけなのでは?
それに、復讐といった負の連鎖にも同じ事を感じます。
未来の為には、どこかで断ち切らなければならない!社会がすべきことは、もっと前の段階…道を踏み外す前の段階にあるのでは?
バイクの音が聞こえるシーンが切なく、
「だから三つの時代を描いたのか…」と府に落ちました。
主人公が命をかけてでも未来に残したかったものが出会うラストは、胸が締め付けられる思いの中で、暖かい涙が流れました。
とにかく綾野剛くんが可愛い!!
ヤバイ目つきのヤバイ奴ですが、ファミリーを得て守る者が出来てから表情が豊かになって、むしろ止められない感情に、こっちまで引きずり込まれます。
仲間を失った時の表情とか、たまらん。
母性本能をくすぐられると言うか、尾野真千子でなくても守ってあげたくなりますわ〜(*´Д`*)
舘ひろしが渋い!もちろん組長としてのオーラもありますが、恐ろしさと言うよりダンディが勝っている感じで素敵でした。
焼肉屋の寺島しのぶも良いし、尾野真千子は圧巻でした。
とくに職場で否定するシーンが最高!
『新聞記者』は青い炎のような映画だったけど、こっちは赤い炎のような映画。
アクションシーンはもちろん、大きく動くシーンが多くて楽しんで撮っている感じがしたし、ものすごく役者の演技に任せている部分もあって、違ったイメージで楽しめました。
shioshioさん、コメント有難う御座います。
レビューを書いてからプレスシートを読んだのですが、藤井監督の映画にはビジュアルテーマがあって『ヤクザと家族』は「煙」だったそうです!確かに差し込まれていましたね。
ま、受け取り手が自分の自由に感じて良いところも映画の懐の深さってことで。失礼しました(^◇^;)