「あえてモヤモヤを残す“問題作”。予告は極力見ずに行くべき」哀愁しんでれら バームさんの映画レビュー(感想・評価)
あえてモヤモヤを残す“問題作”。予告は極力見ずに行くべき
見る人の視点によって、評価がわかれそうな作品。高い評価でも、低い評価でも“問題作”であることには変わりない。
前半、幸せの絶頂へ導く高揚感に快感を覚える。中盤からの不穏な流れも、この先どう転ぶのかという期待が続くので飽きさせなかった。伏線と回収も散りばめられていて面白いが、置き去りのままの伏線もあり、最後にカタルシスを覚えず“モヤモヤ”が残る。
しかし現実世界でも「何が正論か」が見えないまま語られている社会問題が多いのと同じように、あえて全ての結論を見せず、受け手に議論をさせようとしているのならば、中毒性のある作品だと感じた。このような視点にならない人には、低評価になるであろう。
加えて色彩と音楽が素晴らしい演出効果。クレイジーに堕ちてゆく様をファンタジックに仕上げることで、血が飛び散るなど視覚的エグさが無いのに、そこはかとなく込み上げる恐怖を植え付ける。
しかし前宣伝との違和感で、結末に物足りなさを感じた。
宣伝では「なぜその女性は社会を震撼させる凶悪事件を起こしたのか」や、「土屋太鳳狂気の演技」などという煽り文句が踊るが、あの結末は小春の発想とはいえ、夫婦で起こした事件ではないか?“その女性”だけの事件ではない。“社会を震撼させる”と前振りがあれば、社会騒動シーンもあると想像したが事件を起こした迄で終わり。また新しい土屋太鳳を見れたのは確かだが、“狂気”という単語に合うシーンが1,2カ所しかない。
宣伝を知らずに観たならば、家族ごと極端な思考に染まって行く恐怖をもっと感じられたと思う。
余談だが、子供を溺愛するがゆえにおかしな方向へ行く家族という意味では、小〇圭親子を髣髴とさせた。あの親子の周りで起こっている多くの自死や不明瞭な金銭の流れも、社会的には異常な行動に見えるが、子供を大成させるため、なりふり構わず生きるあの母なりの正論であるなら、その心の内は我々には計り知れないのと同じように。