「過去と現実」真夜中モラトリアム odeonzaさんの映画レビュー(感想・評価)
過去と現実
高校時代の仲良しグループ5人がリーダー格だった松元麻衣子の葬式の帰りの飲み会で卒業の時に埋めたタイムカプセルを故人が気にしていたという話が出たことから、真夜中にも関わらず掘り返しに向かいます。
ストーリーは磯部監督の過去の体験をベースにしているようです。
麻衣子はシンガーソングライターに憧れており、よく学校の屋上で一人でギターを弾いていたそうです。卒業してからたまたま出会った丘田の話によるとコンビニのバイトをしている様だったというからミュージシャンの夢は叶わなかったようです・・。
モラトリアムというのは一旦留保と言う意味だが真夜中に故人を振り返ることで時の流れを一旦止めるということなのか、磯部監督によれば椎名林檎の1stアルバム「無罪モラトリアム」に着想を得たそうだ。
タイムカプセルから出てきた麻衣子のノートにはミュージシャンへの熱い思いが綴られており、10年後には武道館でコンサートを開きたいとありました。椎名林檎のアルバムの「正しい街」の一節に「何て大それたことを夢見てしまったんだろう」という歌詞がありましたが麻衣子の心境と重なります。麻衣子を辛辣に見下していた筈の南波がノートを燃やします、きっとこうして欲しかっただろうと・・。
70年の大阪万博で5000年後の未来に向けてタイムカプセルが埋められたことから各地の学校でも将来の自分に向けての手紙や思い出の品が埋められるブームがありましたね。ただ、思い付きだったのだろうが河川敷は場所的に不適当ですね、大雨で流されたり缶が朽ちてしまいますから・・。要するにこの子たちは、総じて賢い部類では無かったことが忍ばれます、どこにでもいそうな若者を優しい目線で切り取って見せると言う点は磯部監督の映画作りへの信条なのでしょう。
短編だから成立する青春エッセイでした。