「ラブホテルという“磁場”と、そこからの解放」ホテルローヤル 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
ラブホテルという“磁場”と、そこからの解放
原作は桜木紫乃の自伝的小説だそうで、ラブホテル経営が家業の夫婦の間に生まれた娘なら人間観や男女観に多大な影響を受けただろうし、そんな稀有な体験を肥やしに作家として大成したのだから人生とは味なものだ。
波瑠が演じる雅代は、母が若い男と出奔した後、甲斐性なしの父に代わりホテルを切り盛りすることに。ホテルの一室での男女の秘め事や会話を従業員(と観客)が共有する仕掛けとして、換気口を通じ地下の作業室に音が漏れ聞こえてくる設定が有効に機能する。雅代は未経験のまま男女の営みに触れる日常に縛られ、恋愛への幻想を失い冷めていくが、それはラブホテルという特殊な閉空間が持つ“磁場”の影響を思わせる。
ある事件の後で雅代はホテルを離れるが、磁場から離れる際の“儀式”の場面は、波瑠の演技と武正晴監督の演出がいま一歩物足りない。身も心も裸になる覚悟が感じられず、心理描写が表層的にとどまったのが惜しい。
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