「原作を上手く再構築している。背景に流れるタンゴがそこはかとない昭和感を漂わせて宜し。原作の持つ時の流れに対する無常感・諦感が薄まっているのは残念。」ホテルローヤル もーさんさんの映画レビュー(感想・評価)
原作を上手く再構築している。背景に流れるタンゴがそこはかとない昭和感を漂わせて宜し。原作の持つ時の流れに対する無常感・諦感が薄まっているのは残念。
(原作既読)①連作短編の形を取っている原作は大変上手く出来た小説だ。ラブホテルを舞台に選んだのは良い視点だと思った。②さて、その映画化。最初と最後のエピソードはそのままに、間のエピソードを雅代を中心に時系列で綴ったのは脚色としては間違っていないと思う。③始まってすぐに、原作で「女の一生」ものの形でハイライトとなるミコさんのエピソードを先ず持ってきて一気に映画世界に引き込む。ここは上手いと思った。余貴美子も好演。ただ、友近は芝居も上手い人だが、北海道の開拓民には見えないのが難。④若い出入り業者と関係を持ちトンズラする雅代の母親役が、若い頃は清純派、最近は良妻役が多い夏川結衣なのがちょっと驚きのキャスティング。でも女優としての幅は拡がったと思う。⑤原作では高校教師と教え子の道行きだけを描いたエピソードを、映画は道行き後の心中までを描く(まあ、そうでしょうな)。ただ、この二人が何故心中という道を選んだかは原作と同じく具体的に描かず観客の想像に任せる。ここでは、伊藤沙犁が女子高生に見えるかは置いといて達者なコメディエンヌぶりをみせる。⑥原作にある貧乏寺の住職の妻のエピソードをバッサリ落としたのは映画の脚色として仕方ないとは思うが、その代わりにセックスというものが人間社会の中で一種の潤滑剤のような役割を果たしているということを表す意図は薄れてしまったうらみはある。(まあ、ラブホテルを舞台にしていることや松山ケンイチ扮するエッチ屋の存在を大きくしたことで代用していると言えなくもないが)。⑦映画はややコメディタッチを加え、背景に流れるタンゴやラストクレジットに流れる正に昭和のニューミュージックみたいな歌とかでノスタルジックな雰囲気を醸し出しているのは悪くない。ただ、原作で最後に男盛りの雅代の父親とまだ男に頼りきりの初さを持つ母親とが未来に夢を託してホテルロイヤルを建てる姿を描くことで(読者はその時点ではその後にホテルロイヤルがどういう運命を辿るかはわかっている)時の移り変わりの無常感・諦感をしみじみと(悪い意味ではなく)感じさせたが、その域までには達っしてなかったと思う。でもひとつの映画としては出来は悪くない。⑧性的な匂いを感じさせない波留を雅代にキャスティングしたのは良い選択だと思う。もっと肉感的な女優うであればもっと生臭い映画になったであろう。⑨不倫の話が多いが(私は不倫は良いことでは無いかもしれないが絶対的に悪いことだとは思わない)、愛という目に見えない不確かなものより(少しの例外を残して熱など数年で覚めてしまうし)、直接肉体を触れあう(即物的かもしれないが)行為の方が時にはより人間を結びつけてしまうものかも知れない。