「震災は怪物」護られなかった者たちへ bunmei21さんの映画レビュー(感想・評価)
震災は怪物
中山七里の原作は、公開に先駆けて既読。日本の福祉の現状とそこに潜む影、そして、東日本大震災を背景に絡ませた社会派のヒューマン・ミステリーとして、原作以上に魂を揺さぶる内容となっていた。あの東日本大震災は、それまでの人々の暮らしを、社会を、心までも一転させた。きっと、被災にあった方々には、辛く、厳しい内容であったのかもしれない。
やや原作とは内容やキャストも変わってはいるが、監督が『64』の瀬々敬久、脚本は『永遠の0』の林民夫、そして音楽は桑田圭祐が担当し、これら日本映画を代表する製作陣を見ても、本作への入れ込み具合が覗われる。
震災の後の避難所で、すべてを失った主人公・利根と母子家庭で母親を亡くしたカンちゃん、そして独り暮らしの老女・ケイさんが出会う。そこから、かすかな希望の光を見つけ、絆が生れた三人。しかし、社会の風は、彼らに厳しい試練を与え、震災から9年後に事件は起こる。
真面目で、誰からも頼られ、事件性とは皆無のような思われた福祉保健士の男が殺された。しかも、身体を拘束され、飲まず食わずで放置された、餓死状態で!それだけでなく、その上司であった男も、同じ手口で遺体となって発見された。
この2つの事件と利根との関係性と真相を突き止める為に、刑事・笘篠が動き出す。しかし、笘篠もまた、震災で妻と子供を失くした被災者の一人であった。そして、見えた意外な真実とは…⁉弱者の味方であるはずの福祉制度について、実は、社会の秩序の矛盾と共に、悲哀が渦巻いている現実を知ることとなる。
途中からは、涙腺が緩みっぱなし。原作になかった、最後の最後のシーンまで、泣かせ、会場からもすすり泣く声が絶えず聞こえてきた。そして、エンディングに流れる『月夜の聖者達』。桑田さんの優しい歌声が、また涙を誘ってくる。佐藤健と阿部寛の2人の演技も安定感があり、自分としては、アカデミー賞の第一候補としてあげたい作品となった。