「今こそ見ておきたい社会派サスペンス」護られなかった者たちへ スモーキー石井さんの映画レビュー(感想・評価)
今こそ見ておきたい社会派サスペンス
「護られなかったものたちへ」とはどの人々のことを指しているのか?
先の大震災をテーマにしているだけあって想像に難しくない。
また、その9年後に起きた「連続餓死殺人事件」の被害者たちも行政に携わる人間たちであるだろうこと、犯行の動機もなんとなく想像がつく。
本作で肝なのは罪を犯してでも護ろうとした犯人、主体はいったい誰なのか?その詳細な背景は?製作者が原作読者・映画鑑賞者に伝えたいメッセージ、震災や生活保護を軸とした社会に投げかけたい問題提起は何なのか?
テーマがテーマなだけに感傷に浸らぬよう出来るだけ冷静に作品の結末を見届けた。
感想を申し上げると、
コロナ禍で行政も経済も機能不全に陥った今だからこそ多くの苦しんでいる人に観てほしいと感じたし、あるいは社会問題に鈍感で無頓着な人らにもできれば観てほしい作品だと感じた。
震災に限らず思わぬ不幸で疲弊した人々はなかなか余裕のある的確な対応はできない。
各々の事情や苦渋の決断により、招いた人災や犯罪。
加害者だろうが、被害者だろうがそれぞれが導き出した考えや言動が招いた不幸故にただの怨恨や行政批判の物語だと切り捨てるのは浅はかな解釈だ。
ただ、素直に不誠実だなと感じる人物は随所に出てきてはいるが。
いずれにしてもお役所だろうが、市民の方々だろうが立場がちがえど苦しみを背負っている。
大事なのは表に出さないようにしたり、強要や蛮行に及ばないことなのかもしれない。
なかなかに難しい事だが。
亡くなった方を供養する、壊れた建物や破綻した事業・生活を立て直すだけが復興ではない。
というか、そもそも生き残った被災者たちはただでさえ苦しい人生、より一層苦しみを感じながら生きていかなくてはならない。
そんな中で求められる共助、公助のあり方を改めて本作では描き、問うている。
登場人物については、阿部寛演じる刑事としての姿は真相解明への貢献はもとよりそこに至るまでの過程には男気と直に観察することで人を見抜く直感力、不必要に語らない一方で、必要とあらば語りかけることで相手の心をほぐし、職分を誠実に全うする公務員ヒーローを描いている。
また、それとは対照的で無鉄砲で不器用な優しさを示す青年役の佐藤健の演技もまた毛色の違うヒーロー像を見せてくれた。