「護ろうとした者たち」護られなかった者たちへ あささんの映画レビュー(感想・評価)
護ろうとした者たち
“魂が泣く”とは言い得て妙だ。
事件が起きた背景を知ると憤慨と哀しみで胸が締め付けられる。誰も本作の犯人を責めることはできないだろう。もっとも憎むべき相手は国なのかもしれないが…。
本作は社会福祉の在り方や不条理さを巡って描かれるミステリー。未だ大きな爪痕を残す3.11東日本大震災の背景も絡められることにより“護られなかった”との言葉がより幅広い意味合を持ち私たちに訴えかける。
大筋は原作と同じであるが(細かい部分は大きく脚色されている)、映画の方が東日本大震災との関係をより深く絡めながら時系列も細かく入れ替えている。映画の脚本も申し分ない。
かんちゃんを護ろうとした利根
飢えで意識が薄れていく中で利根とかんちゃんを護ろうとしたケイさん
家族を護ろうとしたが護れなかった笘篠ーー。
『護られなかった』とはケイ達のように生活保護を受けられずに命を失った人、東日本大震災によって命を失った者、それにより愛する人を失った者たちのことで、私たち皆が大切な“何か”を護ろうと生きている。
本作を観て涙を流す人は多いだろう。だけどただ泣いて終わりではない。護られようとすべきものが護られず、護に値しない者を護る(不正受給など)今の法律と歪んだ社会が変わらないといけない。そのためには私たち一人一人が声をあげる必要がある。
そして、終身雇用制度が崩壊し、幸せな未来が約束されない不安定な現代の日本を生きる私たちはまさに「一寸先は闇」で、よほどの資産家か富裕層の家庭出身でない限り、誰しも貧困の沼に引きずり込まれる可能性があり、本作に描かれている事は決して他人事ではないのだ。もし自分自身が、または愛する人や身近な人が貧困の沼に陥った時に、私たちはどうすればいいのか、ラストのカンチャンのSNSへの投稿が印象的だ。
以下原作から。
「声の大きいもの、強面のするものが生活保護費を掠め取り、昔堅気で遠慮や自立が美徳だと教え込まれたものが今日の食費にも事欠いている。護られなかった人たちへ。どうか声をあげてください。恥を忍んでおらず、肉身に、近隣に、可能な環境であればネットに向かって辛さを吐き出してください。この世は思うよりも広く、あなたのことを気にかけてくれる人が必ず存在します」
それにしても、ちょっとした役にも主役級のキャスト達が顔を揃えていて、豪華すぎる。かんちゃんに清原果耶を差し出すあたりも心憎い。
もう一度観るには重すぎるけど、より多くの人に観てもらいたい作品だ。