「歌詠みに死を選ばせた理不尽を赦しの映画に仕立てた功罪」滑走路 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
歌詠みに死を選ばせた理不尽を赦しの映画に仕立てた功罪
いじめ被害、非正規雇用といった体験を短歌に詠み、初の歌集の出版を前に世を去った萩原慎一郎。その歌集を映画化する企画のコンペで、大庭功睦監督の案が採用され、桑村さや香の脚本でドラマタイズしたのが本作だ。
上司からのパワハラに苦しみながらも、資料で目にした自殺者を調べ始める厚労省の若手官僚。優柔不断な夫に違和感を募らせる切り絵作家。幼馴染を助けたためいじめの標的になった中学生男子。映画は三者のパートを並行して描き、一見群像劇のように進行するが、後半で関係性を明かす構成が鮮やか(ミステリの謎解きのよう)。逆境に苦しみつつ生きる望みを短歌に託した萩原の遺志を継ぐように、希望を伝えるヒューマンドラマに昇華させた。
赦しと癒し、ミステリ味まで添えた娯楽作に仕立てたのは、商業映画として間口を広げる良策ではある。だがいじめ、格差など世の理不尽に真正面から向き合うのを避けるようで、やるせなさも残る。
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アサシン5さんのコメント
2020年12月2日
原作者の歌人は、中高一貫の武蔵高校で六年に渡り拷問のようないじめを受けて、その後遺症で32歳で自殺されたそうですね。いじめた人は官僚やビジネスやマスコミなど様々な分野で活躍しているそうです。いじめはどこにでも有り、自殺の大きな要因であること知らしめた社会的意義は大きいですね。