「もやもやが残った」滑走路 Scottさんの映画レビュー(感想・評価)
もやもやが残った
イジメてた奴らが一番悪いんだよ。オマエラのせいでこんだけの人間の人生が狂ってんだよ。イジメる方にも事情があるとか関係ねえからな。自分の事情を他人に押し付けんじゃねえよ。なかったことにしてのうのうと生きてくとか許されねえからな。
というのを観てる途中で思ったの。
水川あさみが最初に出てきたシーンで、「影絵のクオリティがすごい! これは、小道具さんの仕事じゃない」と思ったのね。それから中学のシーンで水彩画が出てきたときも「これもすごい。ほんとうの作家を使ってるだろ」と思って。エンドロール観てたら影絵と絵画制作がクレジットされてて、公式サイトで確認したら影絵:河野里美、絵画制作:すぎやま たくやで、二人とも作家さんだった。ここに気を配れるのいいなと思ったな。
前半は映像化された詩を観てる感じなんだよね。叙情的な表現は少ない気がするけどなんでだろうと思って観てたの。詩みたいな台詞が多いからかな。
前半は「自殺したのは裕翔(最初にイジメられてた子)で、厚生省官僚が委員長(イジメられたのを助けたら、自分がイジメられた子)だな」と思って観るのね。
「ところがそれは逆でした!」ってのが解って、厚生官僚は最初にイジメられてた子で、自殺したのが委員長だったの。ここが「えー!」となって引き込まれるんだよね。
引き込まれるんだけど。委員長はイジメがトラウマになって高校受験も大学受験も失敗して、非正規労働者になってるんだよね。この「トラウマになって高校受験も大学受験も失敗する」ってところが、納得感なかった。
そもそも委員長は最初はイジメっ子と堂々と対峙して、裕翔を助けてるからね。そう簡単にイジメられっこになると思えない。そしてイジメられてからも、翠にけっこう救われてて、勇気をもらってる気がすんのね。それでもトラウマになるのか。
「翠に救われるのは一時的なものだから、そりゃ残るよ、トラウマ」と言われたら「そうなのか」と思うしかないけど、納得感が今ひとつ。
友達を売った裕翔が、そのことを気に病んで人生がうまくいかなくなって、自殺するなら「そうかもな」と思うの。
水川あさみは最後は離婚する決断をするんだけど、そこも何故なんだって気はしたの。旦那さんはどんなときも「翠はどう思う?」って聞いてダメな奴全開だから、まあ別れるのは解るのね。
ただ中学時代に戻ったラストシーンで委員長が「オレは翠がどんな選択をしても嫌いにはならない」って言ってるから、翠は、自分の選択を許してくれる人が好きなんだろうと思うの。
「そうだと思ってたんだけど、それは、この旦那がやってることとは違うの」ということかも知れないけど、そこは良く解らなかった。
全体を観ればすごく面白くて、文句はほぼないんだけど、この作品の魅力の中心が「普通は自殺しないと思っていた方が自殺する」ってのがあるのね。そこの理不尽さが色んなことを際立たせる。
「だから面白くて良かったじゃない」という気持ちと「面白くするために納得感犠牲にしてるよな」という気持ちがあって、もやもやしたものが残ったよ。