「先の読めないマトリクス」滑走路 Imperatorさんの映画レビュー(感想・評価)
先の読めないマトリクス
時代が、約10年ずつ離れて3つ(ラストを入れると4つだが)。
主人公は、しゅんすけ、鷹野、翠の3人。
よって、時代と主人公で作る2次元のマトリクス(行列)の要素は、3x3=9ポイントある。
(あるいは、時代をたて糸、主人公をよこ糸とすれば、交点は9個。)
しかし、3人がそろって存在するのは、1番目の中学時代だけ。
2番目の官僚時代には、鷹野と、しゅんすけ(直近で亡くなった故人として)。
3番目の影絵作家時代には、翠のみ。
結局、9ポイントのうち、6ポイント(=3+2+1)のみが映画で語られる。
この6ポイントで、人間関係と時代が、何度も何度も交錯し、先の読めない緊張感が続く。
というか、見終わって初めて「ああこの6ポイント(だけ)なんだ」と分かる仕掛けになっている。
6ポイント相互の関係性は緊密だ。安っぽいフラッシュバックに陥ってないし、無駄に複雑なわけでもない。
内容および役者の顔の類似性から考えて、「中学時代のしゅんすけ」が成長して「官僚時代の鷹野」になったと思いきや、実際にはそうではない。
自分は観ている最中、ずっとこの点において混乱していた。
テーマは2つで、メインテーマは「いじめと、そのいつまでも続く後遺症」、サブテーマは「産むか産まないか」。
サブテーマは、夫の非正規雇用問題以外では、メインテーマから外れている。この点にも、自分は混乱した。
しかし、生きづらい世界の中においてさえ、生命(いのち)が大切だと訴えていると考えることができる。
よってサブテーマは、メインテーマを別の角度から補強していると言えよう。
ある程度、観客を混乱させて手玉に取ろうと、作り手が意図していることは明らかだが、決して自分は不快ではなかった。
萩原慎一郎の歌集は未読だが、“映画全体”として観たときに、萩原慎一郎の世界観を実現しているのであろう。
スゴい脚本と演出だ。