「厚労省のお役人がますます嫌いになりました 私の気持ちは滑降路」滑走路 カールⅢ世さんの映画レビュー(感想・評価)
厚労省のお役人がますます嫌いになりました 私の気持ちは滑降路
32歳で夭逝した非正規雇用歌人の歌集(滑走路)からインスパイアされて、ストーリーを作ったとされる映画。
時系列が前後し、どんな展開でラストを迎えるのかと集中していました。
母子家庭で、母親に心配かけないように気を遣う優秀な学級委員長(寄川歌太)と絵が得意で、大好きだが、成績がさがったら絵を辞めさせるという厳しい父親をもつ天野翠(木下渓)。図書館や公園のシーン、彼女の絵、切り裂かれた絵を張り合わせるシーン、自転車、広い河川に架かる橋。それぞれのシーンやカットアングルはすごくきれいで印象的。
水川あさみと水橋研二はともに美術に関わる夫婦。
おしゃれな部屋のソファーに横たわる水川あさみの脚。キレイでしたね。天井からのカット。切り絵もすごくきれいで、水川あさみの指が想像に反して(喜劇・愛妻物語の影響w)きれいでした。手のモデルは使ってなかったようでした。
若手官僚役の浅香航大。
中学生のいじめ役3人。
寄川歌太の母親役には最近よく見る坂井真紀(宇宙でいちばんあかるい屋根、461個のお弁当)。
不妊・少子化問題、いじめ問題、母子家庭問題、雇用問題。観るものに一番訴えたいのは何なのかが中盤から観ているうちにだんだんわからなくなって、もやもやしてすごくストレスが溜まりました。
いじめから救ってくれた親友が、25歳で亡くなったことをNPO法人から提出された自死した非正規雇用者リストから知ることになる若手厚労省官僚。NPO代表が「このSSさんは須和駿介さんで」という場面でノーリアクションだったことから、リストから選んだ時点ですでに確信していて、確認しただけなのだと思いました。睡眠時間がとれないほど忙しいはずなのに、駿介(寄川)の死に対する自分の罪悪感が正当なものか否か確かめたいという身勝手な動機で、単独行動をとる刑事のように調べてゆく浅香航大に強い違和感を覚えたのみならず、母親(坂井真紀)に自分の卑怯な行動の象徴である数学の教科書をわざわざ見せるという無神経な行為(返してない事実も判明!)に私は強い怒りを覚えてしまいました。
母親役の坂井真紀の冷静な返答の言葉、「これはあなたが持っていて、忘れないように・・・・そして、自分の子供ができたら死ぬ気で守りなさい」には雷に撃たれたような気持ちになりました。切り裂かれ、張り合わせられた絵をひとり息子の遺品としてずっと飾っている母親の気持ちを思うと重くて仕方ありません。
その絵を描いた翠の選択。「あなたの子供だから堕したのよ」の優柔不断な男に対する強烈パンチ。しかし、産婦人科でのシーンは直前に止めたはず。展覧会で駆け寄る息子とのシーンは翠が産んだことを明らかにするものでした。
浅香航大と精神科医のシーンのセットは前衛演劇みたいで、「あれじゃ、治らないよ。」と、心の中で突っ込んでいました。医者も精神科医らしくない突き放した態度だし。