「きみのため 用意されたる 滑走路 きみは翼を 手にすればいい」滑走路 kossyさんの映画レビュー(感想・評価)
きみのため 用意されたる 滑走路 きみは翼を 手にすればいい
様々な社会問題を取り入れ、3つの人生の歯車がかみ合わず、息苦しさの中でそれぞれの心の叫びが交錯する。厚生労働省の若手官僚の鷹野、中学時代の委員長と天野、そして30代の切り絵作家の翠が夫婦関係に亀裂が入る様子を描く物語。時系列のスリリングな交錯と名前のギミックが絶妙だった。
まずは厚生労働省の過労による自死についてNPO団体から陳情を受付け、それに対処しながらも上からの指示で何度も徹夜させられ、不眠症にまでなった鷹野(浅香航大)。正規・非正規社員の問題をも軽くえぐり、過労死の現実を突きつけられたかたちだ。自死を選んだ者のリストを見せられ、そこで同じ年齢の一人の青年を見つけた鷹野は彼の死の原因を一人で調査していく。時系列的には翠の妊娠が2029年だったことから、この鷹野のエピソードは2017年だったと思われる。そして原作者・萩原慎一郎の没年も17年・・・
その年齢から2005年辺りの中学2年生の教室。委員長は教科書に落書きしつつも、数学の問題はすらすら答えられる優等生。幼馴染みの裕翔がイジメに遭ってる現場で助けに入ったことが元で今度は委員長がイジメられることになった。そんな中、天野翠の描いた“夜明け”という絵に魅入ってしまい、彼女と親しくなる。
翠は切り絵の才能を発揮し、様々な催し物に展示することで名声を得るようになったが、美術教師である夫が突如クビになってしまい夫婦関係に亀裂が入る。そんな時、妊娠が発覚するのだが、産む産まないの選択で夫の態度で心が変化していく様子。
最初は、委員長の頭の良さから彼が官僚になったものだとばかり思っていたが、それが違っていたことに驚いてしまった中盤。さすがに廊下に展示してあった水彩画には天野翠と書いてあったため木下渓が水川あさみになるのはわかるのですが、交錯するようでしない関係もあったりして、映画のテーマが別にあったのだと予想がすべて覆された感じでした。
派遣をはじめとする非正規社員と過労死の問題。さらには若手官僚が退職するのも自分のやりたいことができないのが原因。折しも19日のニュースで、20代官僚の自主退職が6年で4倍超になっていると知ったばかり。そして青年の死が非正規を嘆いたためではなく、失恋が原因?そして過去のイジメによるトラウマが原因だとわかるのです。
それぞれの中学時代に集束し、手を差しのべること、翼を広げること、人の痛みを理解することなど、考えさせられることが多い。旅客機好きの委員長、授業中校舎に旅客機の影、いったいこの飛行機はどこから飛び立ったのだろう。そしてどこへ降り立つのだろう。「傷ついて翼が折れたとしても誰かに否定される人生なんてないんじゃないかな」・・・この言葉が心に沁みる。滑走路という意味も離陸だけかと思っていたのに、シュンスケだけは違った意味になるかと思うと悲しすぎる・・・でも、翠の心を受け止められたんだから少し救いがあったかな。
今年は印象的な役が多い水川あさみですが、ここにきて大女優の片鱗を見せてくれた。そして、コメディ向きだと思っていた浅香航大もシリアスで良かったし、中学生たちの演技も素晴らしかった。染谷将太の無駄遣いも感じられるし、坂井真紀は安定の演技だし、俳優陣も凄すぎる。ただ、ビートルズに関するものがあればもっと良かったのになぁ。
私も全く同じことを考えていました。
この官僚=秀才
そして、夫婦の話はいつの年代?
確かに、「滑走路」って二つの意味がありますね。
この映画は、自死=悪となっていない、もちろん善でもないところが深いですね。
自死=悪、とすれば、もっと話はシンプルです。でも、それは原作者の否定にもなるので。
自死で身近な人を亡くした人にも見て欲しいですね。
スイス・アーミー・マンにコメントありがとうございました。
新聞の映画評論にこの映画が取り上げられてて、kossyさんのレビューを読んでさらに見たくなりました。
ただ、映画館と上映時間の問題が…。