「【”涙が枯れるまで泣いたら、苦しいけれど一歩前へ進もう・・。”現代社会が抱える諸問題を軸に、生きる事の辛さと”生”を選択する事で得る”光”を描いた作品。作品構成も素晴らしい、見応えある重厚な作品。】」滑走路 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)
【”涙が枯れるまで泣いたら、苦しいけれど一歩前へ進もう・・。”現代社会が抱える諸問題を軸に、生きる事の辛さと”生”を選択する事で得る”光”を描いた作品。作品構成も素晴らしい、見応えある重厚な作品。】
ー 物語は、三つのストーリーを平行して映し出しながら進む。そして、中盤までは、観ていて精神的に辛いシーンが多い。-
1.ストーリー➀ -画像の風合から、描かれた年代が現代ではないのではないか・・。-
・メイン舞台は中学校。
苛められている”幼馴染の男の子”を助けた委員長シュンスケは、逆に苛めの対象になってしまう。幼馴染の男の子は苛めをしていた連中からの指示で、シュンスケの数学の教科書を盗み、故に、不登校になる。
ー 幼馴染の男の子が、自分を苛めていた連中よりも、自分を“弱っちいな・・”と呼んで助けてくれたシュンスケに対し、複雑な思いを抱いて屈託し、自室に引きこもる姿。
自分の弱さを、直接指摘される方が辛いのだろうか・・。-
・シュンスケはプールに投げ込まれたシュンスケのカバンを"髪を濡らしながらも"届けてくれた絵の好きなアマノさんと徐々に仲良くなる。が、”自分が苛められている事”を母親(酒井真紀)に知られたくないが故に、苛めをしていた連中から言われたままに、絵の好きなアマノさんが描いた”賞を獲って校内に飾られていた絵”をカッターで切り裂いてしまう・・。
- アマノさんの画の魅力をきちんと指摘しながら、その画を傷付けてしまった罪の意識から、ズル休みをしてしまう、シュンスケ。
キツイよなあ・・。誰にも、弱音を吐けない辛さ・・。
このような出来事が、彼の"トラウマ"になってしまったのだろうか・・。-
・アマノさんが、引っ越すことになり、自分が切り裂いてしまった絵を、テープで張り直し、届けようと自転車で追いかけるシュンスケ。
ー 追いつかなかったが・・、訪れた奇跡。そして、アマノさんに届いた”自分らしく生きろ!”と言う、シュンスケの想い。-
2.ストーリー②
・メインは、厚生労働省の官僚として、激務の日々を過ごすタカノ(浅香航大)。不眠に悩まされ、精神科医に通っている。
- 彼の不眠の ”本当の理由” が徐々に明らかになって行く過程の描き方が、上手い。そして、その過程で、エピソード②とエピソード①が時空を超えて、徐々に絡んでいくのである。ー
・タカノは非正規雇用者達の”自死”の問題に直面していく中で、自分と同じ25歳の男性の死の原因を追究していく。そこで明らかになった、”その男性”と自分との関係性。
- タカノが”その男性”の母親(酒井真紀)に土下座して詫びながら渡した、”中学生の時に盗んだ数学の教科書”。それを涙を流しながら、タカノに返し、母親が言った言葉。
”貴方が持っていなさい。そして、シュンスケの分まで生きて、結婚して、子供を作って、大切に育てなさい。ゴメンね、受け取ってあげられなくて・・。”
◆涙腺が、崩壊直前まで行ってしまったシーンである・・。-
3.ストーリー③
・ミドリ(水川麻美)は切り絵作家。夫は学校の非正規美術雇用の先生。二人は瀟洒なマンションに住み、一見仲が良さそうである。夫がミドリのかける言葉は常に”優しい”
- が、この夫は”決して、自分の意見を言わない・・、のではなく、自分自身に自信と軸がないので、意見を言えないのであろう。妻の様々な問いに”君の好きにしていいよ・・””君はどうなの・・”
ミドリから”妊娠した”と告げられた際の、彼の言葉を聞いた際には
”ハッキリ、自分の意思を愛する人に伝えろよ!”
と脳内で思わず、罵ってしまった・・。-
・夫は、”カリキュラムから美術の時間が減ったから・・”、解雇されたとミドリに告げる。
ー 私は、このシーンから、この夫が”非正規雇用だった”と判断した。-
・そしてミドリは、逡巡しながら、病院に行く時に迷子になった男の子と出会い、小さいがふっくらとした暖かそうな手を握ったが・・
”貴方の子供だから、堕ろしたの・・”
と夫に告げる・・。
- 男としては、駄目出しされたと同じ事。哀しいが、当然、離婚である。
そして、このエピソード③も、エピソード①と繋がって行くことが、徐々に明らかになる過程の描き方も、絶妙に上手い。-
◆2年後、ミドリの個展で久しぶりにミドリが夫と再会するシーン。蟠りは無さそうだ。そして、彼が去った後、ミドリの元に駆け寄って来た男の子。”アスカ!(飛鳥かな・・)”と呼び、嬉しそうに抱き上げるミドリの母親としての柔らかな表情。
ー 中絶していなかったのか! -
このシーンでは、堪え切れずに、涙が溢れてしまった・・。
<三つのストーリーが中後半になるに連れて、時空を超えて繋がっている作品構成の妙に魅入られた作品。
そして、どんなに辛くても、枯れるほど涙を流しても、”生”を諦めてはいけない・・、
”誰かに否定される人生などない” という当たり前のことを再認識した作品である。
シュンスケが自死した背景は、曖昧にしか描かれていないが、
彼の死が、逆説的に、タカノとミドリに
”どんなに辛くても、”命”を大切にするのだ!”
という想いを持たせたのであろうと感じた作品でもある。>
■補足
<シュンスケが自死した背景の考察>
・様々な解釈が出来ると思うが、私は彼の中学時代の辛い経験が、”トラウマ”として彼の”生”を徐々に蝕んでいったのではないか・・、と解釈した。
それ故に、知識は有れど、サイクリックな仕事の町工場で働き(否定する積りは全くない。)、理由なく愛した女性と別れたのではないか・・。
ここが、もう少しキチンと描かれていればと言う想いはあるが、それが不鮮明であるからこそ、”生の儚さ”が浮き彫りになるのではないかと、私は思った。
それは、今作の発想の源となった方の詩集の内容と生き方とも、繋がるのではないかとも・・。
■蛇足1
・ここ数作の水川あさみさんの演技は凄い・・、と思っているのは私だけであろうか・・。
■蛇足2 <2020年11月22日 追記>
・鑑賞後、2日経ってパンフレット購入。今から読む。
水川あさみさんが選んだ、故、荻原慎一郎さんの一首は”自転車のペダル漕ぎつつ 選択の連続である人生をゆけ”
名門中高一貫校で、長期に及んだ苛めの後遺症に悩まされ、自死された方の短歌集を読むには、相当の覚悟が必要な気がする・・。
こんばんは。
コメントありがとうございます。
「その男〜」ですが、映画館でなくても良いかなと思いましたが、観てよかったです。誰も皆、人の子なんだな〜と感じました。そして必死に生きてる人は偉いな〜と。
こちらこそ来年もどうぞよろしくお願いします!<(_ _)>
そうですよね。
いじめ後遺症で自死を選ぶって、、、そのまんま主人公ですよね。
あまりにリアル。
同時に、この映画は残された人が伝えたいことをまとめたような内容なのかなと、思いました。
原作者は自死してしまったているので、この映画の作成に関わっていたのでしょうか。
良い映画でした。
スイス・アーミー・マンにコメントありがとうございました。
新聞の映画評論にこの映画が取り上げられてて、気になってました。
元は歌集なんですね。本買おうかなぁ。