空白のレビュー・感想・評価
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彼らを叱りつけたくなった僕もあなたも同類だ。
一人の命をきっかけに、登場人物みな、狂ったように正義を押し付ける。
何かを求め感情で動きまわるが、何一つ得られないどころか、信頼を、店を、大切な誰かを失ってしまう。。
古田新太も最後は良いおじさんになったように見えるが、きっかけは死人が出てからだというのは忘れてはいけない(脱線ですが日本の不祥事ってこんなのばっかりですよね)。
娘の交通事故は巡り巡って自分のせいでもあると、こてんぱんにやられて初めて気づくのである。
日常で、何かを言いたくてしょうがない人は世の中たくさんいるけど、自分に返ってきて初めて、愚かさに気づくのだろう。
僕らは決してこの映画をバカにすることはできない。
しかし、ここまでグロテスクな末路の反面、映画館を出ると妙に気持ちがすっきりしているのはばぜだろう。
最終部の、苦しみは時が解決する、真面目にやっていれば良いところを見てくれる人はいる、そんなありきたりな主張がとても心地良く、救われた。
死にたいほど辛くても、一抹の希望は必ず現れ、また立ち上がれる。ものすごく婉曲だが、そんなメッセージが伝わってくる映画だった。
破滅的なことを予感させたが
今、同じような事件があったとして、作品中であるような報道のされ方があるかというと、まずない。リアリティを出すためには、舞台を昭和にする必要があったと思う。
そこはおいておいたとして、父親の暴走は尋常でなく、破滅的なものを予感させた。破滅的な結末から観客が何かを感じる。そんなストーリーを想像していたが、違っていた。
娘を突然失った父親の喪失感というのは想像できる。その父親が、喪失感を埋め合わせるだけの娘の思い出を持ち合わせていないとなると、外に向かって感情を爆発しないと心の均衡を保てないのかもしれない。
添田は、全く知らなかった娘のパーツを一つ一つ拾い上げて理解していく。この作業にようやくたどり着いて、過去との折り合いをつけるスタートラインに立てた。
100%善なる人間も存在しないし、100%悪なる人間も存在しない。相手の中にある善なる部分に希望を持つことが赦すということなのかもしれない。
昔バイトしていたスーパーの話を思い出した。
日芸に入学したての頃、その頃校舎が航空公園にあり、付近にアパートを借りて住んでいた。
学生プライスなので和室12畳にガス焚きの小さな風呂がありシャワーなどもなく夏も湯船。
アパートの扉を開くと目の前はお茶畑で、二つ隣の部屋には同じ映画学科在住の小林幸子と同姓同名の子が住んでいて長閑な学生生活を過ごしていた。
そんな長閑な学生生活でバイトしていたのがハニーマートという、この舞台になった様な地元密着型の小さなスーパー。
店長が若干パワハラ気味で、同じパートのお姉さんに少しずつ攻められてる気もして慌てて辞めたのだが、数年後、そのスーパーの店長が刺されたと言うニュースを観たのを思い出した。
僕自身、数奇な人生を送っているが、今回のこの映画、緊急事態宣言で街に人が溢れかえるのを逃げる様に、過去にパワハラで話題になったアップリンクで鑑賞。
物語は淡々と進む。
今まで色々なことを自分で乗り切ってきたために、自分が正義だと疑わない父親。
受け継いだスーパーを惰性で続けつつ、全てがルーティンになり、実は常に綱渡りだったスーパーの店長。
田舎特有のエスカレーター方式で教師になってしまい、自分に対して落ち度はないと思いそれ以上踏み込めない担任。
そして、たまたまそこに居合わせたために引いてしまった女性。
その周りに渦巻く様々な人たち。
善とは、悪とは、正義とは、正解とは。
それぞれの主観が吐き出され、父親も振り上げた拳の落とし所を探すかの様に、目の前にある物を殴り続ける。
店長も殴られて、力尽きやがて倒れる。
救い謎ないのではないかと、物語の中でのもう一つの葬式の場で、古田新太は、凛とした母親とその気持ちで打ち抜かれる。
そこから話の流れは一気に変わり、バラバラになった人々が少しずつ寄り添う様になる。
なんて優しい映画なのだろう。
決定的に、赦しに向けて何かが始まるという描写は無いものの、最後の娘との心の繋がりに気付けた父親の姿でそっと優しく幕を閉じる。
僕は二つ目の葬式から涙が止まらず、食事の時に古田新太が謝罪したシーンから感情を掻き乱され続けていた。
娘の形跡を追う事で、初めて娘の姿を垣間見て、彼もそれを認めたく無いとは思いつつも、やがて事実を受け入れ始める。
Netflixで「息子のしたこと」という海外の映画があり、そちらは父親がそのまま暴走して、加害者側を殺した上に、事実を隠蔽して終わる。
あの後味の悪さを一度経験していただけに、今作の優しさに救われた。
同時に、少し前の、池袋のひき逃げ事故の事も思い出した。
様々な感情が揺さぶられ、古田新太の芝居に酔いしれる良い映画だった。
P.s. 数年前に新馬場の仕事で道端でキャップに缶バッチじゃらじゃらで邪魔なオッサンとすれ違い思わず舌打ちしたら古田新太でした。その節は申し上げございません。
松坂桃李は結局やったのか?やってないのか?
最後まで古田新太が「モヤが晴れない」と言っていたところでハッとしたが、松坂桃李が添田の娘を事務所に連れていってそこでなにしてたか、これだけはわからない。
そう思うと学校長が言ってた「3年前に痴漢した」ってこれも本当なのかもしれない。(さすがに学校の責任逃れのための嘘としか思えないのだがもしかしたら?)
もし松坂桃李がほんとに添田の娘に痴漢まがいのことをしていたとしたら、それでいて松坂桃李が震えて謝りどうしたらいいかわからないって死のうとするなら?
そう考えて頭の中で映画を観返すとまた全然違う観方ができておもしろいなと思う。
まあそう疑いたくなるのは、わからないものを疑い続けるのは当然ながら、特にそのわいせつ行為とかそう言った可能性を最後まで捨てきれないのは、そういうのが父親心なのだと思うけれど。
「空白」ってなんのことか、考えるに父親の古田新太が事故について整理し冷静になってある種向き合うようになるまでに必要だった時間のことだと思うが、
松坂桃李と添田の娘が過ごした事務所での時間、これも「空白」なのではないかと…
と観た後思いましたが、上映中はダバ泣きでした。
松坂桃李はスーパーの店長向いてなかっただけだと思う。弁当屋として成功してほしい。
優しい映画
序盤の衝撃的展開から、その後はじわじわとマスコミだったりおせっかいだったり人間の嫌な部分を見せていくスタイルは実に近年の日本映画的とも言えると思う。
しかしその一連を無理なく少しの緊張感を持続させる監督の手腕はさすが!
終盤、運転者女性の死によって物語が一変、とはいかないが心境的には変化が訪れる。
そこからは自分と世間、お互いの思いを少しずつ変えるだけでこんなに見え方が違うんだと、いわば花音ちゃんと同じような子に対してのアンサーというかエールのようにも感じることができた。
YouTuberが絶賛していたのを何個か見て変な期待をして行ったから肩透かし感はあったけど
振り返ると、たしかにいい映画だったと思う。
そこまでハードルを上げて見るものではないな。笑
しかし寺島しのぶにキスさせる必要あったのかなとふと思う。笑
冒頭のぐらぐら揺れる全景シーンのとおり
全編に渡って観客の視点を落ち着かせてくれません。
吉田監督の巧さに脱帽です。
副題である”intolerance”、つまり「不寛容」をテーマとして見事に昇華してくれました。
マスコミと男性教師2人、ネットの中傷者(どれも多少デフォルメ過剰なきらいはありますが…)を除いて、どの人物に対しても一方的な肩入れやヘイトを生じさせないような巧みな視点誘導。
言ってみれば全員が被害者でも加害者でもあると。
加えて、起きてしまった結果やそれぞれが失ったものは取り返しのつかないわけです。それを容赦なく描くので、鬱展開の連続です。
寺島しのぶさん演じるパートのおばちゃんが象徴的ですが、登場人物全員が会話不能、一方的な主張の押し付け、言ってみればコミュ障です。
それを他者との関わりを通じて、世界を開き、ほんの僅かではありますが光明が見えてくるようなラスト回りは、悔しいかな完璧です。
事件の真相を敢えてぼやかした点。これは、まさに大英断ですね。
本作では「正しさ」の押し付けや、マスコミ等に象徴される無責任な糾弾を、ネガティブに描いているわけですから、神様視点での「真実」を描写することはテーマの矮小化そのものとなるわけです。
これは「不寛容」を描く作品なので。これで良いんです。
また、俳優さん達も本当に素晴らしいです。
演者の力量が少しでも足りなければ、バランスが崩壊しかねないところ、すなわち微妙なバランスのうえに成立しているような作品とも言えますが、それを古田さん、松坂さん、寺島さんを中心とした達者な俳優さん達のおかげでキャラクターの実在感が増しています。
個人的に吉田監督のベスト作品なのは間違いないです。
それどころか今年2021年、邦画ベスト候補作品の筆頭だと思います。
2021年ベストムービー!⭐️⭐️⭐️✨
鑑賞後、改めて思ったのは、なんだかイソップとかの教訓話のようなストーリーでも聞かされたのかな…みたいな印象…「こんな愚かな人間にはなりなさんな」というような(笑)
古田新太演じる男は、自分本位で、仕事仲間はもちろん家族とすら、まともにコミュニケーションを取ろうとしない。ややというか、かなり暴力的な態度や発言で、分かったような事を偉そうに言って、自分以外を無理矢理ねじ伏せる…そんな男だ。昔堅気なんてものではなく、周りから理解してもらえるような生き方とは程遠い。
そして、そんな生き方をして来てすでに破綻しつつあった彼の人生が、娘の死を前にして崩壊してしまう…遅かれ早かれ、形はどうであれ、いずれこうなったのであろう。
そんな悲しい男が、再生する道を見つけていく物語だ…正直、あまり同情はしたくないが(笑)
しかし、そんな男に巻き込まれて死んで行く人間や、あるいは死んだも同然のような人生を送らされてしまう人間が、この物語にはたくさん出て来る。娘はもちろん、(ある意味)善意ある人々が彼にどんどん巻き込まれていき、あまりに可哀想だったり、その広い心を知って、感動して何度も涙した…ホントに(笑)
ラスト、亡くなった娘の気持ちを少しでも知ろうと、生前やっていた油絵を下手くそながら真似事のように男は始める。そして、たまたま空の雲をイルカに見立てて描くが、娘も同じように描いていた絵を見つけて、彼は少し安堵したような表情を浮かべ映画は終わる…。
でも、それでは遅いのだ。あまりにも遅すぎるのだ。この男は、本当に愚かだ。
さすがにまっったく乗れない。。
クズが出るのが悪いわけではないんです。
ただ、なんでそんなクズを慕い続ける人がいるのか、
そのリアリティのなさが本気でむかつきました。
充と一緒に働いていた藤原はほかの人に充の文句を言っており、それも納得するしかない内容でした。
しかも見捨てられたのに、自分からもう一度雇ってくれって頼みに行くのおかしくないですか??
少なくとも藤原が充と働きたいと思うような充の良さが一つも描かれていないので、
は?としか思えず、パワハラ気質な親父に対する甘やかしな気がしてまったく乗れませんでした。
映画の作り自体はうまいなと思いました。
特に最初の弁当屋で言われるスーパーオアヤギの店長さんですよねと
2回目の元常連さんに言われるスーパーアオヤギの店長さんですよねの落差の部分は特によかったなと思いました。
ただ個人的にはムカつきが勝ってしまったので、この評価です。
古田新太さんの演技に『道』のアンソニー・クインを観た
本映画の主役を演じた古田新太さんの「凄まじさ」に恐怖ならびに畏怖の念を覚えました。こんな「くそ人間」の近くに行きたくないと思わせるのです。粗野で、乱暴で、無教養で、人と話す時はすべて“恫喝”まがいの怒鳴りつけモードです。しかも、タチが悪いことに「自分を持っている」のです。その自分とは社会的に不適合者である性分なのです。本当に関わりたくない人間なのです。古田さんは劇団出身ということで、あらゆる役柄を演じてきたからこそ、達成された「くそ人間」なのでしょう。本映画には現代社会が抱える様々な問題が内包されています。「毒親」「パワハラ」「小児性愛者」「いじめ隠蔽」「マスコミ」など。さらに身近にいる「街角の正義マン」と「ボランティア押し売り人間」です。監督の吉田さん自身の脚本です。ただ、色んな諸問題を詰め込みすぎて、ボヤけてしまっている感も否めません。わたし的には「毒親が招いた悲劇」として、完結して欲しかったです。それにしても、古田新太さんの演技はフェニーニの『道』でザンパノを演じたアンソニー・クインを彷彿させる熱演でした。
『運だぜ!アート』のluckygenderでした
前半と後半
古田新太の双方向に怒りを撒き散らす姿はモンスターみたい
前半の娘を亡くした悲しみの心情のぶつけ方が怖い。
その対比のような後半の娘のことを理解しようと自分に向き合う姿が悲しい
正論を振りかざしてる寺島しのぶもよかった
見終わるとどっと疲れるけど面白かった
演技力で入り込めた。
新田新太演じる古典的な頑固親父、スーパーの店長役の松坂桃李とその周りにいる人たちに起きたお話。
題材が気になったので見にいきました。
まず良かった点と悪かった点を。
良かった点
とりあえず役者さん達の演技力は抜群に良かった。モンスター親父、気弱な店長、パートのキモいオバハン、後悔している先生、引いてしまった女性etc演技がとにかく素晴らしかったです。嫌がらせ行為など現実であるような描写が良かったです。
誰もが被害者になり加害者にもなる。と言うようなメッセージが込められているような気が個人的にはしました。
悪かった点
映画の短い時間の中で親父と店長以外の人たちにもフォーカスを微妙に向けてあるせいで、中途半端なことになっている。おばはんとか船員の気持ちとかいるかな?と思いました。親父が店長を追い詰める、まじで全く同じ手口とセリフの繰り返しでした。
マスコミの報道がめちゃくちゃ。これが一番おかしい。作者のメディア嫌いが込められてるのかなんなのか、偏向報道が過ぎてました。そして特にそのことには触れずに話も進んでしまうありさま。
痴漢の話とかも出てきたけど、下心があったんだろ!くらいしか触れない。そこには親父怒らないんかい…
不意に出る良いセリフなどはあって、要所要所良かった部分もありますが個人的には微妙です。
まずワイドショーは観てはいけない
スターサンズがまた社会派と聞いて、こりゃまた名作の予感と思い、早速見に行った。
今回は娘を失った、異常なほどに気が短く洗いおじさんがいかにその怒りをぶつけ、そして変わっていくか、が描かれていた。
冒頭のシーンがリアルで一気に心をつかまれたので、ストーリー的にもかなりの結末が待っているのでは、と思ったが、思ったほど後半伸びしろがなく終わった感じ。
勝手に期待した私が悪いが、なんかふわっと終わった感じがした。
あの添田というおじさんは本当に沸点が低く、正直見るに堪えない。
逆にスーパーアオヤギの店長は不器用で優しくて、一番かわいそうと思ってしまうが、やはり世辺りは下手。
いちばん胸が苦しいのは故意に轢いたわけではない加害者側になってしまった娘さんの母。片岡礼子さんが見事に演じていた。
しかし、あの添田というおっさんはあの片岡礼子さん演じる母のあの葬儀での一言で変わるのか、はなはだ疑問である。多分時間が経てばまた戻るのかもしれない。
絵が好きだったり、と意外な一面はあるものの、あの他人に対する常に八つ当たり気質は、私にとってはとても脅威で、ちょっと同情するには値しなかった。あのモンスターを演じた古田新太さんは凄い。
この作品、主要キャスト、みんな何かしらに行き詰って途中で他人に怒ったり怒鳴ったりのシーンがあるが、優しい人ほど怒りから覚めるのが早い、という事も描かれている。松坂桃李さん演じる店長はまさにそう。結局、優しさや怒りのバランスなのかな、と思ってしまう。しかしそれも環境や状況によって少しずつ変わるものかもしれない(一気には変わらないと添田のおっさんで示している)。
ただ、あのワイドショー。あれはやはり害悪である。もう結局この映画、ワイドショーの害悪さを語りたいのでは、と思った。これは昨今の日本における一番の社会問題でもあると思う。
コロナ禍になって如実に浮き彫りになっている。偏向報道。悪者を常に作りたがる報道。そして、あのワイプでしかめっ面をしてまっとうな人間を演じて見せるどこかの専門家だの評論家だの。
もちろん、一人一人が悪だとは思わないが、自分ならそれに加担していると思ったらあんな仕事やりたくない。
そして「私テレビなんか見ない」と言いながらネットのニュースに誰かを中傷している傍観者。結局はそのニュースの根源はワイドショーであることが多い。
もうこの映画を観たらワイドショーなんか観るのやめてほしい。百害あって一利なし、とまで言わんでも90害くらいで占められているのがワイドショー。最近は番組内容を見るだけでも吐き気がする。
後半はワイドショーへの怒りが出てしまったが、これも私の誰かを悪者にしたいという悪い部分が出たのかもしれない。もう何が正しいのかわからない。でもワイドショーは観ない方がいい。
空白の意味
空白って結局何だったのかなと考えてみたけど、多分花音が亡くなってから、充が娘のことを調べていく中で、娘のことを全然わかっていなかったことを知り、皮肉にも亡くなった後に娘のことを知っていく中で、その空白を埋めていく物語だったのかなと思った。
最後のいるか雲は親子の見えない絆がというか、繋がりが見えてよかった。
事故はリアルすぎてちょっとトラウマになるレベルでかなり注意が必要。
イルカ雲
恐ろしかった。
哀しくもあった。
怒りすら沸いた。
次第に人の温もりを感じていった。
そして最後は感動した。
あらゆる感情が揺さぶられた。
事の発端は小さな事故。
が、当事者たちにとっては大きな事件…。
漁港のある町。
漁師の充は口が悪く、荒々しい性格。
中学生の娘・花音と2人暮らしだが、無関心。ある夜、娘から何か話事があったにも関わらず、聞いてやる事も無く。
そんな娘が突然、死んだ。
スーパーで万引きの疑いを掛けられ、追い掛けて来たスーパーの店長・青柳から逃げようとした所を車とトラックに轢かれて…。(これは酷すぎる…)
若い命はここで終わったが、物語はここから始まる…。
娘を失った父。
責任に押し潰されるスーパー店長。
庇うパートおばさん。
充の元妻。
最初に花音を轢いた若い女性。
花音の通う中学校、担任。
マスコミ…。
その文字の如く、波紋が拡がっていく…。
渦中に居るのは言うまでもなく、充。
本来ならば、悲劇の父。ぐちゃぐちゃになった娘の遺体と対面した時の嗚咽など、嘘偽りの無い感情だろう。
が、前述の通り充は気性が荒い。ずっと無関心だった娘の近辺を調べ始める。学校でいじめはなかったか。
とりわけ矛先が向けられたのは、スーパーと店長の青柳自身。
本当に娘は万引きしたのか。青柳の対応に否はなかったのか。
徹底的に、徹底的に!
娘を失った父親の悲しみや怒りは分かる。(でも、こんな事を充の前で言ったら激怒されるから要注意!)
しかしこれは、生前無関心だった娘への罪滅ぼしになるのだろうか…?
ただ自分のやり場の無い苛立ちを当たり散らしているにしか思えなかった。
その行為はどんどんエスカレートしていく。
学校へは半ば脅し。
スーパーには営業妨害。
青柳本人には嫌がらせ、ストーカー的な行為。
さらにはすぐカッとなる性格が災いして、“暴力行為”とマスコミに報じられてしまう…。
悲劇の父親から一転、キチ○イ親父。
それでも充の常軌を逸した暴走は止まらない。
充を単なる悲劇の父親ではなく、嫌悪や哀れも抱かせる描き方が秀逸。
人は誰だって、良くも悪くも、様々な顔、複雑な感情がある。
それは他の登場人物にも言える。
青柳。
急死した父親の跡を継いで店長に。
物静かで真面目。好青年。
しかし、それ故に…。
終始おどおどし、相手の目を見て話す事も出来ず、言いたい事もはっきり言えない。
唯一繰り返すのは、ただ一つ。
すいません、すいません、すいません、すいませんでした…。
それがまた充の怒りに油を注ぐ。
嘘か真か、充は青柳のあらぬ噂を掴む。
娘に何をした!本当の事を言え!
小市民…いや、小心者の青柳。精神的に追い詰められていく。
一人の少女を死に至らしめ、責められる立場の青柳。
弱々しい姿は同情的でもある。
その根暗な性格が災いして、無愛想。何考えてるか分からない。
見てて苛々もしてくる。
ある時、遂にブチ切れる。八つ当たりする。そりゃあこんなに追い詰められた時に、特選のり弁が普通ののり弁だったらキレるよ。(でもその後すぐ謝罪)
ある時、胸の内をさらけ出す。何もかも苦しい、と。
よくこういう時、気持ちや心を強く持って、と言うが、誰しも出来る訳ではない。弱い者だって、居るんだよ…。
パートのおばさん、草加部がまさにそう。支える所か、お節介。充とは別の意味で存在が重い。彼女は彼女で青柳に特別な感情を…。
充の元妻、翔子。離婚後も花音とは連絡を取り合い、娘の死を悲しむ。充の暴走を制止しようとするが、彼女は現夫との子を妊娠中で、娘を失ったばかりの充にとって癇に障る。
最初に花音を轢いた若い女性。彼女も責任を重く感じ、充の元へ何度も何度も謝罪に訪れるのだが…。
学校ではおとなしく目立たなかったという。それを努力してないと咎めた担任。しかし今にして思えば、彼女なりに努力していたのでは…? 適切な指導だったのか、行き過ぎた指導だったのか…?
いじめは無かったと報告しても一向に引き下がらない充。困った学校側は青柳に関するある噂を吹聴する。充を学校から追い払う嘘なのは明白。…いや、物言いはっきりしない青柳が隠しているだけなのか? そもそもの始まり、万引きも含め、何が本当で、何が嘘なのか、もはや分からない。
そして、周囲を嗅ぎ回り、ネタの為なら真実を歪めた悪質な報道だってするいつもながらのマス○ミ…。
彼らが見せる怒り哀しみ、罪悪感、喪失、やり過ぎ…埋められぬ“空白”が虚しい。
しかし、皆が魅せる渾身の熱演には心震えた!
個性派だけど、映画やTVドラマでは助演が多く。バラエティーではおっさん…? が、
古田新太、こんなに素晴らしい役者だったとは…!
その演技、その存在感から一瞬足りとも目が離せない。
この夏はワイルドな孤狼の漢を魅せた松坂桃李だが、半年も経たずして180度違う役柄。その役の振り幅に驚かされると同時に、本当に同世代ピカイチの演技派。
寺島しのぶのウザさ、田畑智子の人間臭さ、巧さは言うまでもない。
充の船に乗る若い漁師・龍馬役の藤原季節も良かった。当初はすぐ怒鳴る充を毛嫌い。が、周囲が充を叩き始めると充を理解し擁護する。徐々に交流を深めていく充と龍馬…。あるシーンで龍馬に守られた時の、充の表情が忘れ難い。
そして、片岡礼子。あるワンシーンで鮮烈な印象を残した。
皆が魅せる渾身の熱演、最上級のアンサンブル!
怒りでしかこの悲しみを発散する事が出来なかった充が変わり始めたのは、あの出来事だったと思う。
ある人物が自ら命を絶った。最初に花音を轢いた若い女性であった。
その女性は母親と共に何度も何度も充の元を訪れ謝罪を申し出るが、充は一切無視。充の攻撃の矛先は、青柳。
謝罪すら受け入れて貰えない…これって責任を重く感じている者にとっては辛い事。さらに、その女性は心優しく、繊細で…。
責任、重さ、辛さ、悩み、苦しみ…それら全てに堪え切れず。
葬儀。充が現れる。喧嘩腰。元々の原因はテメェら。
女性の母親(片岡礼子)が対応するのだが、この母親の言葉が充の胸に響いた。
同じ娘を亡くした親として。
それまでは娘に何があったか、娘の死の原因ばかりを探ろうとしていた充。
娘と直に向き合い、無関心だった娘本人を知ろうとする。
そうか、娘は美術の高校に行きたかったのか…。
画を描いてみる。チョー下手だけど。娘の顔…? イルカ雲…?
娘が好きだった少女漫画も読んでみる。よく分かんねぇ。
しかしある時、娘の部屋から見つけてしまう。
娘は本当に…。
俺は娘を信じる余り、間違っていたのか…?
決してただのイイ着地に終わらない。
各々が抱えた空白の先に…
青柳は一連の発端者でもあり被害者。何もかも失った。今すぐは無理かもしれない。でも、彼にも、きっと…。
草加部。確かにお節介。でも、誰かの力になりたい根はイイ人なのだ。そんな彼女も、きっと…。
翔子。娘を失った悲しみは消えない。が、これから産まれてくる新しい生命と共に、彼女にも、きっと…。
いつか皆、救われる日が。きっと…。
そして、充。
翔子に対してぶっきらぼうだった彼が掛けた言葉。
思わぬ場所で青柳と再会。今の彼なりの誠意を伝える。
担任が学校にあった遺品を持ってくる。
それは、娘から父への贈り物と言っていい。
やはり、父娘。同じものを見ていた。
イルカ雲。
空と白。
以前の作風は人を滑稽かつ、愛おしく。
近年は人の本質を抉るように。
本作ではヒリヒリとするような始まりから、まさか感動で終わるとは…!
しかもこれを、2時間弱で収め、オリジナル脚本で。
新作を発表する事に“最高傑作”を更新。
本作は紛れもない。
𠮷田恵輔監督最高傑作!
…だけに留まらない。
『ヤクザと家族』『浜の朝日の嘘つきどもと』『孤狼の血 LEVEL2』『シン・エヴァ』と並び、今年の邦画のBEST級。
今年の邦画は凄いぞ!
(まだ見てない『すばらしき世界』もあるし)
過失が生む悲劇
コレといった悪意がないのにあまりにも凄惨な事故...
怒りも悲しみも謝罪もどう表したらいいか分からない感じですよね、父の古田新太はモンスター化しましたが、気がおかしくなって当然かも知れません。
店長の松坂桃李の「わからないんです」には理解ができる。
自殺した女性の母親の謝罪はちょっとレベルが高すぎてスゴイとしか言えないかな、正解かもしれないけど私だったら言えないなー
ただこの謝罪から父親古田新太が変わっていくんですよねー
出演者は皆良かったです。
全員印象に残る感じでした。
スーパーの店長松坂桃李出てきた時は
「ももちー!」
と心の中で叫んでました笑
本当絶賛大活躍中ですよね。
寺島しのぶは絶対なんかやってくれるこの人!と思ったら期待通りでしたし笑
漁船のお兄ちゃんもいい味出してました!
始まりは衝撃的ですが、
最後はちゃんとオチがあって感動しました。
とてもきつい
子どもが事故で亡くなる、しかもむごい様子なのは、直視していなくてもきつい。
かのんを最初に車で撥ねた女性のお母さんの、古田新太に対しての態度がすごい。人間の大きさを容赦なく見せつける。
かのんをまるで存在しないかのような印象を抱く同級生が、素直すぎて残酷だ。
担任の先生の顔がかわいい。
古田新太の恫喝や罵声がいちいち決まっている。漁業で癒されそう。
子どもとはちゃんとコミュニケーションを取らないといけないなと思う。
一番の被害者は、、
花音ちゃんを運悪くひいてしまった女性の様に思えた。
それとカレーを溢した女の子、、
どちらも気が弱いという点があるけれど。
一番悪意を感じたのは中学の校長?先生。
根拠のない話をモンスターお父さんを追い払う為に流布するとか、、教育者の劣化を見た。
虐めはああやって隠蔽されるのかと。
最後の方、自殺してしまった女性のお母さんが咽び泣いて、詫びた所から、充さんの態度が変わっていった。
そこから、悪意ばかり感じて見るのが辛かったが、
善意やわかり合いが見えて来た。
彼女はスケープゴードのようで本当に気の毒に感じた。
これは、、、
1時間40分の映画に心理描写が詰まった映画です。
出演シーンが僅かでも脳内補完し、こんな感情だろうと推察できるつくりになってます。
結局、こういう被害に遭うとお金で解決とかではなく、長い時間と自分との向き合いが大切になる。自分も似たような境遇にあったので、観ていてつらいところがありました。
マスコミの描写もあんなところかと思います。
切り取り報道の醜さをしっかり描いていて、原監督の河童のクゥと夏休みを思い出しました。
出演者の皆さんがどんよりと輝いている映画でした。
テーマから逃げた安易な感動ラストが残念
評判がいいようなので観ましたが、ちと残念な作品ですね
社会的なテーマを重厚に描いて、最後に感動して泣かせるラストにすれば、日本アカデミー賞で総ナメでしょ?みたいな、すごく安易な作品に思えました
せめてテーマに結論出していれば許せるんですが、そこで結論出すことからは逃げてます
自分のしたことの責任は取らずに証拠隠滅して逃げた古田新太と一緒ですね
いやいや、こんな主人公が実は娘と通じてたとか、こんなとってつけたような感動ラストで泣かされてたまるかよって
スターサンズって、自民党批判かこんな安易な賞狙い映画しか作ってないですよね
今後はこの制作会社の映画は観ないでおこうと思います
この監督さんは所々良いシーンがあるんですけど、キャラクターの感情が繋がってないというか、感情がご都合で飛んでるんでそれが致命的にダメですね
松坂が娘に痴漢したんじゃないかという噂を知った古田はそこが一番知りたい情報のはずなのに、それがフワッと無くなってしまい、なぜか松坂に事故現場の再現とかやらせてましたけど、感情的には痴漢の真偽が明らかにならないと次の行動に移れないはずだし、こちらとして急にどうでもよい別な展開をされても興味が失せてしまいます
松坂が車に轢かれそうになってビビる、というシーンを監督がやりたかったんでしょうが、観客の興味はその前に古田の感情です
古田もこのタイミングで松坂に事故現場の再現をさせる理由がないはず
あと、藤原季節の役は最初に古田を嫌っていたし、また古田の理解者になる分岐点が描かれてないです
古田が手を怪我したぐらいで大変そうだから許そうレベルの嫌いでは無かったはずです
感動させよう、話を広げよう、派手なシーンをやろうのご都合でキャラの感情を不自然に操作するなんてもっての外です
そして、古田と松坂の感情に絞ってストーリーを描けばいいので、脇役の葛藤とか要らないです
しゅりのエピソード、藤原のエピソード、寺島しのぶのエピソードを描けば描くほど、話が散漫になります
ただ、寺島しのぶのキャラは面白いので、これはこれで一つの映画にすれば良かったと思いました
では、どうすればよかったというと、
万引きした証拠の化粧品は古田が隠滅
良心の呵責から自殺した野村真純の葬儀で母親に非難されると思いきや、改めて謝罪されたことで古田は自分の加害行為を悔い改めて改心する
古田は店が潰れて警備員してる松坂に謝罪
ここがラストシーンで綺麗に終われば良かったと思います
もちろん、社会的なテーマに作家として意見、結論づけていれば傑作になってました
主人公は自分の責任からは逃げて、作り手もテーマに対する意見・結論を言うことから逃げて、ストーリーにオチはつけなきゃいけないから、ポッと出のキャラに焼き鳥弁当美味かったとか言わせたり、ちょうど良いタイミングでしゅりが持ってきた娘の絵が自分の絵と同じ景色だったとか、安易な感動ラストはマジで終わってます
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