「感動のなかにも苦味が」空白 デブリさんの映画レビュー(感想・評価)
感動のなかにも苦味が
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片岡礼子さんのお芝居、みぞおちに入る。静かに、そのまま重力に従うように、膝を折りたくなった。古田新太さんも松坂桃李さんも寺島しのぶさんも藤原季節さんもみんないいし、脚本も好きだ。どうしようもなく過酷な部分もあるけど甘ったるいぐらい人に優しいところもあるし、やっぱり怖いところもあるし。
結局、万引き疑惑でスーパーの裏手に連れて行かれた少女が、なぜ死にものぐるいで逃走したのか、そこの“空白”は明らかにされない。観た人それぞれで想像していいんだと思うけど、ひょっとして彼女を死に追いやったのは父親ではという気がしてならない。
授業参観を父親でなく母親に出てもらおうと思っている、ということ一つ伝えるのに大変な勇気が必要になる関係性。母親がせっかく持たせてくれたスマホを目の前で投げ捨てられても抗議もできない関係性。そういう父娘関係だと、万引きが父親にバレたらどんなことになるのかって、娘が恐怖に駆られても不思議じゃないと思うので。
スーパーの店長がいやらしいことをしそうになったとかいうのより、どうもそっちのほうに真実味を感じる。
加害者になってしまった運転手の母親と、若い漁師と、元妻と、そして店長と、感動的な場面をあんなにいくつも演じて、最後に娘ともつながって光が見えました、ですっきり終わったらそれはそれでいい映画だったと思うけど、この苦味の残りかたも案外、嫌いじゃない。
もう一回見たらまた別の解釈をするかもしれないけど。
そういえば、寺島さん演じる草加部さんが「正しさ」に異様なこだわりを見せた理由もはっきりとは分からなかった。自分の「キモさ」を正しさで超えたかったのかな。
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