「赦せる? 赦せない?」空白 ぽか.さんの映画レビュー(感想・評価)
赦せる? 赦せない?
役者が皆、素晴らしかったです。
古田新太の演じる添田充を主人公としてみれば、
こんな世の中で、人を赦し、自分自身を赦せるか?
という真摯な問いに、今は出来ないけれど、
いつか出来るようになるのではないか?
という希望を持たせたエンディングでした。
それは、映画というジャンルで、他人(添田充)の
物語を眺めているだけだから、持ち得る感興なのかも
しれません。では、観客の一人ひとり、ぼくらは
どこまで、人を赦すことが出来るのだろうか?
という自問自答が、映画を観終わった瞬間から始まります。
“空白”とは、親子でも見えない互いの心の中
だけではなく、映画の中で描かれなかった場面、
青柳直人・店長が女子中学生・花音を別室に連れ込んでから、
花音が店外へ飛び出していった間の出来事でもありました。
寺島しのぶの演じるパート・草加部さんが身を張って、
青柳店長を誘惑するも、青柳は成熟した女性には
恐怖感・嫌悪感しか抱くことが出来ません。
青柳の最初の土下座は、父親・添田充にも
土下座返しされたように、通り一遍のパフォーマンスに
過ぎなかったのかもしれませんが、2度目の土下座は
本心からの改悛の念だったようです。皮肉にも
(幸いにも)添田に真意は伝わらなかったのですが。
青柳の2度目の土下座は、花音の遺品の鞄のマスコットに
触発されており、ドストエフスキーの『罪と罰』における
ラスコーリニコフの大地へのキスと同等。もしかすると、
青柳の自殺(未遂)も、『悪霊』のスタヴローギンと
同等の罪に由来することを暗示しているのかもしれません。
でも、そんなこと、映画では描けません。せっかく、
添田が新しく生き直そうとしているのに、水を差して
しまいますもの。では、観客のぼくらは、青柳を赦して
あげられるのかしら? 監督は、静かにそう問いかけて
きているような気がします。ネットでぼろくそに中傷され、
自殺しかけるまで追い詰められ、店も潰れてしまった
……それで十分ではないか、と寛容になれますか?と。
正直、十全な感動に浸るのを阻害してしまう
もやもや感を醸し出すだけの問いかけですが、
現実って、そうですよね。綺麗に、100%赦せる
なんて、言えっこない。だからこそ、時間はかかる
かもしれないけど、前を向いて生きていこうと試みる
訳で、花音の万引を看過してあげるのならば、青柳の性癖も
……いやいや、と屈託の残る罪な映画でありました。