劇場公開日 2021年9月23日

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「理由を探す錯乱、罪の意識、融和」空白 菜野 灯さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0理由を探す錯乱、罪の意識、融和

2021年9月26日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

冷静に考えれば、交通事故なんです。路駐の車の影から急に出てきたひとはとても危ないし、反対路線から飛び出てきたひとを避けるのは難しい。だから、路駐の車のそばを通るときは必ずスピード落としてる。

とはいえ、娘を失った父親は整理がつかず、モンスター化する。娘の死に対して理由を求める。それを誘発したスーパーの男性店長、娘をはねたドライバーの女性、娘の担任女性教師、元妻(現夫の子供を妊娠中)、漁業船に雇いいれた若い男性、が取り巻く。一方で、スーパーの店長の弁護的な役割で、スーパーの店員の年配女性の健気な様子も描かれる。

父親は、なぜ娘を失うことになってしまったのか、やるせないものをぶつけていく。失ったものへのどうすることもできないやるせなさ。

理不尽さはすぐには解決せずに時間が必要ということにはなるが、いっときの錯乱のようなものを切り取っている。だれもがその場にたてばどうするだろう、どうやって感情をコントロールしていけばいいのか、ということを突き詰められる。怒り、謝罪、融和、癒し。こころの変遷がつまっている。

ここに登場する人物たちは誰も悪くない。責められることもない。けれど、罪を感じてしまうのも人間の性である。全体的に重たい内容。ドライバーの女性まで亡くなってしまうストーリーはやややり過ぎの感を感じた。

俳優では、吉田新太は突っ張ってる漁師になりきっているし、最後につれて和らいできて、謝るシーンはぐっと来る。寺島しのぶ、松坂桃李は、スーパーの普通の人を演じ切っていて、芸幅の広さを感じた。目つきにいい意味でオーラを消し去っているし、キムタクではできないことだ。

寺島しのぶ演じる年配女性の店員が、若い男性店長になりふり構わずキスをするシーン、若くてきれいな女の子だったら違うってことでしょう?っていうセリフは、年配女性のこころの叫びを言っているようだ。おっさんだって若い女の子が好きなように、おばさんだって若い男の子が好きだ。このような純な心の叫びを観ることができるのも映画のいいところ。

年配女性は若い女の子にない癒しになるときがある。若い女性にはない安心感(若い女性相手だと自分が守らなきゃってプレッシャーあるけど、年配女性だと逆に母性に守られてる安心感)を感じたいときだってあるんです。

菜野 灯