「誰しもの中にある「空白」」空白 Masuzohさんの映画レビュー(感想・評価)
誰しもの中にある「空白」
【空白(くうはく)】
紙面などの何も書いていない部分。転じて、むなしく何もないこと。
予告からなかなか社会派な印象を受けて
観ようと思っていた本作
タイトルにもある空白この映画の登場人物にとって
様々な意味を持つ物だと思いました
漁師の充は気難しく思い込みが激しく
妻とは離婚し中学生になる娘の花音二人暮らし
ですが花音はすっかり引っ込み思案な性格で
会話も殆ど無い日々
そんなある日花音はスーパーで万引きを疑われ
逃走するうち車に跳ねられトラックに引きずられ
悲惨な最期を遂げてしまいます
見るも無惨な姿になった娘に充も元妻も悲しみますが
充はアイツが万引きするはずがない
スーパーの店長が別の目的で娘に近付いたに
違いないとモンスター化していきます
ですが自分も大して娘と会話してなかったので
とにかく思い込みが強く前日に花音が何かを
相談しようとしていた事も学校のいじめだと
思い込んで学校に詰め寄りますが
学校でもいじめに至るほど印象があった
わけではない事を知ります
これが充にとっての「空白」となります
スーパーの店長青柳もそもそも父の急死引き継いだ
スーパーの運営はそうやる気がなく
そんなに口も上手くないので
通夜に行ったときもその場で万引きという
キーワードを出し激高させてしまうなど
コミュニケーションはそんなに上手くありません
万引きされたことと自分の中でやりすぎた部分を
ただひたすら謝ろうとしかしなかったせいで
後ろめたいことをやったと誤解を招いたのです
なぜ俺がこんな目にという罪悪における
青柳の「空白」
一応青柳には草加部という父の代から
スーパーにいる年配の従業員がいます
気弱な青柳を励ましてくれる味方・・のようで
どちらかというと困っている人を助ける事で
自分を満たそうとしているだけの空回り活動家
タイプで言う程に中身は「空白」
スーパーは悪くないとビラ配りを始めたり
しますが協力者は気の弱そうな女性一人だけ
マスコミやネットは面白がって両者を
コラ画像やデマ吹聴
切り抜き報道・いもしない関係者
インタビューなど捏造で追い詰め
どんどん悲惨な方向へ転がっていきます
また観ているこちらも万引きを娘がしたのか
という決定的なシーンを見せられないまま
あらゆる疑いの目を持ってストーリーを
見せられていき
もう万引きしたのかどうなのか関係ない
ところまでいってしまうところに
世間が話題をどう扱っているかという
ところに真実が関係ない様を感じました
だから現実のマスコミも捏造をするのですね
悲劇は続き
恐らく不起訴処分となっていたのであろう
最初に花音と衝突した女性は
母親と何度か謝りに来ていたのですが
充は相手にせずその女性は自殺してしまいます
お通夜に充は来ますが俺は謝らないと
また信じられない態度を取りますが
女性の母親は
こんな選択をした心の弱い子に育てた
私の責任で罪の気持ちを私が背負っていくから
娘は許してほしい
とこれから訪れる「空白」に対し
自分に言い聞かせるように
憎しみの連鎖を止めようとします
このシーンは本当につらい
ただ言えるのはこの母娘は充と違い
お互いをよく知り合う関係を築けていたから
こうした事を母親が言えたのであって
充にはとうてい理解できず何も言えなかった
という事なのでしょう
時すでに遅いのですが
充の感情にも変化が出てきて
花音の好きだったことを知ろうと
するようになります
すると嫌われ者のように見えた充にも
心配する者がいることに徐々に
本人も気が付いていきます
・・その中で徐々に花音がどんな存在
だったかを少しずつ知る中でぬいぐるみの中から
マニキュアを見つけてしまいます
こういうとこがこの映画本当にえぐい
充は見て見ぬフリをしてそのマニキュアを
廃棄してしまいます
その頃青柳は
草加部に例のごとく無責任に励まされますが
もう正しいとか間違ってるとかではなく
どうしてこうなったのか理解できないまま
追いつめられていき
ついには風評で客も減ったスーパーを
閉店させてしまいます
その後二人はまた出くわしますが
青柳は謝る事しかしません
充は万引きの可能性を知ってしまった手前
もう何も言えずただ「疲れたなぁ」としか
言えずに話は終わっていきます
ホントこの映画
最後まで目は離せないのに
観終わってもどうこう結論も出すことが出来ない
凄い映画です
そもそも万引きした奴が悪い!
充はクズ親だ!
青柳は誤解を認識できずに不利を被ってばかりのバカだ!
世の中偽善者ばっかりだ!
そうやって言っていけばそれで済んでしまう
かもしれませんがこの映画のあらゆる事象が
現実の世界で見てきたことすぎました
誰しもが持っている「空白」をこうした形で
表出した監督の技量には感服です
映画館にこうした社会派の辛い作品を
観に行けとなかなか言えないかもしれませんが
こうした作品こそスクリーンで観られると
得した気分になるとこあります
おすすめです