「"相反する"様々な"視点"を客観的に味わい尽くせる作品」空白 アオイアオさんの映画レビュー(感想・評価)
"相反する"様々な"視点"を客観的に味わい尽くせる作品
期待の遥か上の上。
"相反する"様々な"視点"を客観的に味わい尽くせる作品
今年映画館で鑑賞した作品で1番の衝撃でした。(2021年暫定1位)
まず初見連続で2回。日を改め、人物視点を変えて計4回鑑賞。
まず、ティーザー、本ver.チラシからも漂うメッセージ性とセンスの良さ。(チラシやポスターで作品から何を伝えたいのかがハッキリとしている。問題提起の方法が優れている。)に期待しつつ。。
冒頭からあっという間に引き込まれました。
映像だけで伝えてくる潔さ。人物像と環境。光を綺麗に撮られていました。音数少ない透明感のある音楽も秀逸。
背中越しのグリーンという色からはどうか穏やかに、ことが落ち着いてほしい、受動的な青柳と様子をイメージしつつ
タイトルバック。空白
ああ、なんてタイミング!痺れます。(吉田恵輔監督の作品ごとのタイトルバックのタイミングを楽しみにしている)
さあ、ここからはじまる、想像もつかない場所、ことへと、見たくないような見たいような後ろから背中を押される手を引かれる感じ。最高です。
あっという間の鑑賞時間。体感では30分。
衝撃の後の埋まらない『空 白』は見る側に"問い"として与えてくれた気がしました。
他人事とは思えない、いわゆる問題作、こういう作品を待っていました。この企画を受け、形にしてくれたスターサンズさん、吉田監督、今までもこれからも本当に目が離せません。毎度毎度心揺さぶられ、引きずります。
ただそこにいる、生きている演じていないのでは?と思うほどの普通でとても自然な人々、マスコミの過剰な情報操作、誹謗中傷.現代ならではの不寛容さ、、
吉田監督の演出と引き出し方、人物の描き方がもう半端ではないのです。
そして脚本が本当に秀逸で面白い。(愛しのアイリーン撮影中に描かれたそうです)それぞれの普通のキャラクターが身近にいそうだし、実際にいるし、自分の中にもそれぞれを感じるように描かれている。
"それぞれがそれぞれの正義"で"間違った"ことはおそらくない。それ故に身近にいる一番の恐怖は正義の押し売り、暴力的とさえ感じる。周りが見えなくなるほど自信に満ち溢れ、正義観と言う名の鎧を纏って、、。それを否定したらこちらが悪であるかのような?必死過ぎて正直鬱陶しいし、きついし、本人はそれに全く気づいていない。それにより、知らずに意図せず誰かを傷付けて追い込んでいるかも。そして、その状況にも気づかないことが怖い。
また、それぞれの行動を客観的に当事者が見るシーンがいくつかあり、時間と共に冷静になっていく。見る側見られる側の逆転と言いますか、展開が面白いし
(近いと見えなくて引くとよく見えるまたは、人のふり見て我がふり直せと言わんばかりに) 憎い演出です!(拍手)
フード描写も素晴らしい。(フード理論)
お弁当のつながりも、食卓の様子も、スタミナ◯◯とか特製◯◯弁当とか、それぞれの心境が良く表現されてると思いました。(悲しくても辛くてもお腹は空くし、精をつけるためとか、最後の食事くらいは、とか、、)食べ物や食事を通した人物描写が多くあります。焼鳥弁当、天ぷら、カレー、即席味噌汁、刺身
何か大切なものを失ってその『空 白」を埋めていく作業がその人にとって少しずつ光になって身になっていくのではないかと感じた。それぞれが不幸で予想外な展開が起こってしまうが、起きたことはほとんどが辛いし取り返せないとして、
「どう折り合いをつけていくのか」無くすことで気づけたこと、それを埋めようとすることが何よりもこれからの救いなのかもしれない。
そうと考えると、「空 白」がない草加部さんは救いがないかもしれない。とも言えてしまう。
一生懸命作ったカレー(人生)を溢され(拒絶され)、泣きながら拾い集める(慰める)シーンは絶妙で素晴らしい。彼女のその後が気になりました。"救い"を見つけて欲しい
知ることや興味を持つこと、ごめんなさい、ありがとうと素直に言えること、伝える大切さにハッとさせられます。距離をとる時代だからこそ改めて身に沁みる。
見終わりは、とてもとてもあたたかです。優しさもあり、落涙。
父の見ていた景色はきっと娘も見ていた景色で、
ただそれだけ、それだけが、生きるすべ
俳優さんみなさん本当に素晴らしいのであえていうまででもありませんが、
特に、藤原季節さんの父のように慕う存在へ向ける視線と親しみの言葉、伊藤蒼さんのなんとも言えない寂しそうで空っぽな目の表情が忘れられません。片岡礼子さん、奥野瑛太さん
さまざまな感情が味わえる、みんなで語り合いたくなる作品でした。傑作。面白い!
実際は、衝撃が強くて未だ頭の中がぐちゃぐちゃで整理がつかないでいる部分もありますが、、噛み締めて、余韻に浸りつつ
普段起こりえる些細なことでも、いつの間にこんなになってしまったのだろうなんて思う事、事が独り歩きして想像もつかない事態になりえる。恐怖
現代の沢山の人の心に届いて欲しいと願います。