劇場公開日 2021年9月23日

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「【泥沼のような負の連鎖の果てに、二人の”加害者=被害者”が辿り着いた境地。𠮷田恵輔監督渾身のオリジナル脚本は、重くて、哀しくて、遣る瀬ないが、鑑賞後の余韻の深さが凄い作品である。】」空白 NOBUさんの映画レビュー(感想・評価)

4.5【泥沼のような負の連鎖の果てに、二人の”加害者=被害者”が辿り着いた境地。𠮷田恵輔監督渾身のオリジナル脚本は、重くて、哀しくて、遣る瀬ないが、鑑賞後の余韻の深さが凄い作品である。】

2021年9月24日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

ー 𠮷田恵輔監督は、オリジナル脚本に拘る監督である。
  初期は、「ばしゃ馬さんとビッグマウス」など軽妙なタッチが多かったが、「犬猿」「愛しのアイリーン」辺りから、人間が抱える闇を前面に出してきた感がある。
  その、集大成が今作ではないだろうか・・。
  重くて、哀しくて、遣る瀬無くて・・。けれども、引き込まれ、鑑賞後も余韻が凄い作品である。ー

■感想
<Caution 内容に触れています。>

 ・今作は、人が他者並びに自分自身に対し、赦しを与える難しさを描いている。

 ・娘をスーパーの店長、青木(松坂桃李)が添田(古田新太)の娘、花音の万引きする姿を見つけ、車が行き交う道を追いかける時から、負の連鎖は始まって行く。
 添田が、執拗に青木にまとわりつき、愚かしき報道陣に対しても、悪口雑言が止まらない。
 ー それまで、娘の言葉には耳を貸さなかったDVに近い添田の、あの激しい怒りは
   自らの”心の空白”を埋めるためであろう。ー

 ・青木も、正義を振り翳すパートのおばさん(寺島しのぶ)からの”正義の押し売り”や添田からの嫌がらせに衰弱していく。
 ー 自分は、正しい事をしていると思っている人が陥りやすい、”正しくない、もしくは逆に迷惑な事”を只管行うおばさんの姿。ー

 ・添田の娘を撥ねてしまった女性が、何度も添田に謝罪に来るが相手にしない添田。そして、”心の弱さ”故に自死してしまう。

 ー 今作の、白眉のシーンであり、添田の心に変化を齎したシーン。ー

 ・その葬儀のシーンで、やって来た添田に対し、娘の母(片岡礼子)が、涙を流しながら言った言葉が凄い。激怒するかと思いきや、
 ”私の娘が、本当にすいませんでした。娘は心が弱かったので、キチンとお詫びもできなくって・・。けれど、明るくて、良い子だったのです・・”

 ◇ 今作は、出演している俳優さん達の演技も、物凄い。
   突出しているのは、古田新太と松坂桃李だが、寺島しのぶや片岡礼子、添田の元妻の田畑智子、添田に罵倒されながらも添田を気遣い、一緒に船に乗る青年を演じる藤原季節。工事作業者のお兄ちゃんを演じた奥野瑛太。
   皆、渾身の演技を見せてくれる。

 ・添田の気持ちが、徐々に変わって行く様。
 それは、娘が本当に万引きをしていた事を知った事も一因であろうが、葬儀で詫びた自死した娘の母の言葉や、元妻の言葉”貴女に、私の夫を貶される言われはない!”と言う言葉に対し、初めて添田は深々と”すまなかった・・”と頭を下げるシーン。

 ・青木もスーパーがつぶれた後、交通整理の職に就くが、工事のお兄ちゃん(奥野瑛太)から”焼き鳥弁当、美味かったっすよ。”と笑顔で言われるシーン。
 ー 自分がやってきたことを初めて、他人から肯定的に言われ、俯く青木の肩が震えているように、私には見えた・・。ー

 ・そして、且つての怒りは薄れた添田と青木が海辺で話をするシーン。
 ー ”それでも、まだモヤモヤすんだよ・・”と添田はやや晴れやかな表情で青木に話しかける・・。ー

<今作は、重くて、2時間見ているのは正直シンドイ。
 だが、この作品がテーマにしている
 ・誰もが、加害者になりうるし、被害者にもなりうる。
 ・人を、そして自分自身を赦す難しさ
 を、𠮷田恵輔監督が、渾身のオリジナル脚本で描いた、記憶に長く残る作品であると私は思った作品である。>

NOBU
アンディぴっとさんのコメント
2022年3月13日

こんにちは。
毎回上手く書けないのでお恥ずかしい限りです。
吉田監督はヒメアノ〜ルしか見たことがないので、これから観たいと思います。
名優揃いで大満足。古田さん、桃李くんはもちろん,寺島さん。そして田畑さん。どの作品に出ても名脇役ですよね。

アンディぴっと
M hobbyさんのコメント
2021年10月6日

こんにちは。コメントありがとうございました^_^
本作は本当に出演人の演技力が素晴らしかったですね。
NOBUさんのポイントポイントにそうそうと相槌を打ちながらレビュー拝見させてもらいました。

M hobby
ミカさんのコメント
2021年9月26日

こんにちは。基本的な部分は変わらず、深みがましたと思います。昔はかなりシュールでしたよね。

ミカ
kossyさんのコメント
2021年9月24日

NOBUさん、こんばんは。
今日ミナマタを観て、まだ引きずってます…何だか今年の1、2って感じもします。
邦画は本当に良作ぞろい!

kossy