「これは我々が日々抱えている感覚と似ているかもしれない」横須賀綺譚 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
これは我々が日々抱えている感覚と似ているかもしれない
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正直、私はこの映画を舐めていたのだと思う。これは非常に足元の覚束ないミステリーであり、なおかつ記憶をめぐる俯瞰の視点を持った幻想譚とさえ言えるのかも。人は大きな悲劇に見舞われた時、その記憶を早く忘れたいと願うだろうか。忘れずに語り継ぎたい誓うだろうか。あるいは何もせずとも記憶は時間の経過と共に風化していくものなのか。かつての恋人を探しに東北を旅して帰ってきた主人公は、これらの選択を迫られた人々とおのずと対峙することになる。その過程で横須賀にあるケアハウスに辿り着くのがとりわけ興味深い。なぜなら作り手はこの場所を介護の場というよりも、むしろ記憶の集積地として用いているからだ。渦巻く記憶。忘れまいとする意志。それでもなお膨大な情報量によって日々何かを洗い流される我ら。本作は誰も責めたりはしない。ただ、誰しもに覚えのあるこの感覚を、映画というキャンバスを使って代弁してくれている。そんな気がした。
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