「天才という存在、そして死と再生」僕たちの嘘と真実 Documentary of 欅坂46 バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
天才という存在、そして死と再生
欅坂46の始動から公開当時までを描いたドキュメンタリー映画で、やはりというべきか圧倒的な天才パフォーマー、絶対センター平手友梨奈を中心に映画は展開していく。平手は映画が公開された2020年の1月に脱退。その理由は多く語られなかったが、この映画を観ているとなんとなくわかるような気もする。彼女の憑依的な表現力とパフォーマンスに、ファンも他のメンバーもスタッフでさえも魅了され圧倒されたが、平手自身もまた自らの才能にある種苦しめられていたのかもしれない。初期のあどけなく初々しい姿は逆に新鮮だったが、曲が始まるとその世界に没入していくのはその頃からで、完璧を追い求める姿勢は時が経つに連れてやがて彼女自らを追い込んでいったようにも見えた。音楽映画とも言えるほどにライブシーンの多い映画だが、それを観ているこちらも平手の、そして他のメンバーたちのパフォーマンスに圧倒されてしまう。そんな平手を1番近くで見ていたメンバーたちによるインタビューが平手の、そして欅坂46の5年に渡る歴史の証言となっていく。平手自身のインタビューはないがそれも逆に効果的になっていた。そして平手を失ったメンバーたちの喪失感。傷つき、打ちのめされ、のたうち回りながら、そこから再び立ち上がる彼女たちの姿も印象的。
コロナ禍で公開延期となった4月以降の出来事も新たに撮影して追加編集しており、無観客の配信ライブにおける欅坂46としての活動休止と改名の発表から、最後はコロナ禍の東京の街へ。『Documentary of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る』で東日本大震災と真正面から向き合った高橋栄樹監督だけに、この空前の事態をも映像の中に収めておこうという気概と誠実さを感じた。
終盤は香港民主派の女神・周庭さんも拘束中にずっと頭の中に浮かんでいたという「不協和音」から、「黒い羊」「誰がその鐘を鳴らすのか?」「太陽は見上げる人を選ばない」という流れの楽曲。その歌詞が当時の世界に妙にリンクしているように思えたのは、もちろん作詞当時に意図していたものではなかったとはいえ、なかなかに心震えるものがありました。