悪は存在せずのレビュー・感想・評価
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反骨精神
凄い作品を見た!といった感じ。4話オムニバスの内、1話目が最も衝撃的であり、2話目で痛快、3、4話は穏やかに展開。
イランの一般的家庭での日常。米を運んで、アパートの猫を救出し、妻(多分教師)をピックアップして銀行に寄り、小学生の娘を迎えに行く。さらにスーパーで買い物、妻の実家に行き家事や掃除、その後3人でピザを食べる・・・他人から見てもごく普通の家族。この主人公ヘシュマットの職業は何だろう?と考えていたら、朝早くに起きて職場の風景が映し出される。早番なのね、きっと。えーーー!
2話目では兵舎でのやり取り。上官の命令は絶対。逆らったりしたら、反逆罪として軍法会議にかけられたり、兵役が延長されたり・・・徴兵制は21ヶ月を無事にやり過ごせばパスポートも取れるし、自由に仕事が出来るとか。そんな中で主人公プーヤの取った行動は?彼女は言った「あなたなら出来る」と。
3話目は兵役中に3日間の休みを取って、誕生日を迎える恋人ナナの家族と過ごす男ジャワド。実は嬉しくないんだよな・・・彼らの家で息子のように大切にされたケイワンという男が死んだとか。誰?ケイワンって。ジャワドは全く知らなかったが、何やら思想犯か何かで警察に追われていて、先生と呼ばれるほど近所の人からも慕われ、家族のもとで匿われていたようだ。死んだとは言え、嫉妬心も沸いてくるジャワド。そして彼の写真を見ると・・・
多分4話目が最もドラマっぽい仕上がり。切なくなるような1~3話よりは、家族の秘密を中心とした作品。大学生の娘ダルヤが急遽呼び出されてイランの砂漠地帯の一軒家に帰郷するが、伯父さんだと思っていた男が実は・・・といったストーリー。彼の過去も多分壮絶だったことがわかるのですが、2話目の20年後といった内容でもあった。
死刑制度の是非の問う素晴らしい作品であり、映像も脚本もしっかりしている。イラン国内のタブーを描くって・・・どんだけ死刑が執行されてんだよ!と感じた。さらに死刑囚が死刑執行される直前の心境なんてのを描いた作品は多いものの、執行する側の心境を描いた作品は希少価値がある。複数人が一斉にボタンを押すとか聞いたことあるけど、実際はどうなんでしょうね。
一人、一人の生き方が徴兵されることにより変わってくる。
モハマド・ラスロフ監督の映画をもっとみたいと思っていたが、なかなか機会がなく『悪は存在せず』を見つけた時は飛び上がった。以前、彼の一作、The White Meadows(英題)(2009年製作の映画)を観て、最初、監督の意図することがわからなかったが、わかったと思った時は、監督の幅広い見解とアプローチに腰を抜かしてしまった。私の理解と監督の意図することが同じかどうか知る術もなかったが、自己流の理解に満足していた。
Iron island とManuscripts don't burn(すごい!)も観たが、かなり前だったのでもう一度観てレビューを書きたい。ドレッグス(英題)(2017年製作の映画)Lerd/Dregs/A Man of Integrityをやっと配信で見つけたので絶対に見るつもり。
この映画だが、
『悪は存在せず』と言う、性善説的タイトルに興味があると思った。
1/4: わあ、、最後のシーンでハシュマート(Heshmat) が3時に起きて、コーヒーをいれて、何かを口にするまではよかったが、小窓を除き、ボタンを押したら、足が何本か見え、驚いた。多分コーランの唱える曲がかかっているのだと思うが。衝撃! しかし、初めから、ハシュマートの無気力な表情がおかしいと思っていた。なぜ、どんな時でも、何が起こっても同じ顔をしているのと思った。 アスペルガーじゃあなさそうだし、どうしたんだとずうっと思っていた。子供のザハラにも好き勝手にさせ、コントロールできないし、伴侶は先生らしいが、彼女と話していても熱意がなく目の輝きは全くないし。ちょうど、認知症の母親と同じ目をしていた。人間の感情が持てなくなっちゃうんだなあ。
2/4 : She said "You can do it"
これは軍隊で寝る部屋を共にする仲間との会話で、死刑執行をこの手でしたくないという若者、プーヤ(Pouyaカベ・アハンガル)。軍のサービスを終え、パスポートを取って(出国できるパスポート?意味がわからない)ガールフレンドと人生を始めたいだけ。この手で人を殺すという間近に迫る、変えることの出来にくい問題を、それぞれの意見を戦場のように戦わせている。 軍に従う、ここはイランで法律はない、金とコネの世界だという人、下のベットで寝てる人は(命令に従わなかったから)4年も長くここにいると。アリという人が代わりになるけど、お金を払えと、(金とコネの世界)などと。。。。。軍にしてみれば、戦場に出たとき『無神経に敵を殺す』 手始めのつもりに違いない。(わからない。冗談?)。即、現実に向き合っている意味のある討論で好きだった。しかし、笑っちゃうことに、囚人が逃げようとして銃を奪うわけじゃない。問題意識のない監視と囚人はなぜ、プーヤがこんな行動にうつしていることを理解できていないと思う。だから大笑い。プーヤは軍に従うことが正当だと思っている一人から渡されたメモを見ながら脱出を図る。これこそ、戦場だと思いながら観ていた。最後、ヘジャブを被っていないガールフレンドに会って求めていた人殺しをしない選択権を勝ち取る。流れる音楽やプーヤ走る時のドラムが実によくマッチしている。この先はどうなるかしらないが、体制にハマらないで自由を求めて突っ走ること。素晴らしい。
3/4 誕生日
ジャヴェイド(Javad:Mohammad Valizadegan)は2年の軍の務めを終え、ガールフレンド、ナナ(マフタブ・ゼルバティ)の誕生日のプレゼントを持って戻ってきたが、それは、三日早く軍から出て、誕生日に間に合わせたかった。2年の配属は強制されているものであるが、我慢すれば終わるよと、答えるジャヴェイド。問題意識のない彼に、ナナの母親は『強制的なものに、NOと言えるパワーが大事』と。楽しい誕生日を期待していたが、同日、兄、アラスの友で息子のように育った、キーヴァン(Keyvan)の弔いの日。『モスリムの葬儀は男の親戚が集まるまで、死体はきれいにしておいて、皆が祈ってから埋葬。』と私は理解していて、このように死刑になった場合はモスリムの儀式ではできないのかもしれないと思った。ジャヴェイドは絞首刑の場でキーヴァンの立っている椅子を引いたと。 ここでナナの母親の言葉が光るね。これは彼の選択だけど。
4/4 KISS ME
ダリヤDarya(バラン・ラスロフ監督の娘)は バハラムおじさん(Mohammad Seddighimehr )の子供ではないかとすぐ思った。秘密をダリヤに打ち明けたいようだし、ダリヤをじっと見つめる目つきでそう感じた。ダリアのお母さんの二人の弟も絞首刑になった。バハラムおじさんは結果として運転免許ですら持てない。このおじさんはジャヴェイド(Javad)ではなく、プーヤ(Pouya)の結末のように描かれている。
最後、広大な原野の中で、車が止まっていて動こうとしない。かっこいい終わり方だね。バハラムおじさんはここで亡くなってしまったと想像させる。狩をしている時、ダリアは『生き物を殺傷することを拒否する』とバハラムおじさんに言ったじゃないか? ダリヤは一言『お父さん』って言えただろうかと思った。
4作品をそれぞれ長く伸ばして別々にしてもいいと思った。4本とも傑作だね。歌の歌詞と状況がマッチしていていいね。
政府はなぜ、軍人に絞首刑の手伝いをさせるのだろう。 それも、冤罪の可能性とかいうより、なぜ、死刑の場に軍人の手を借りてる?若者の良心の呵責は相当のものだろう。1/4の処刑の場で働いているお父さんも、3/3の処刑場で椅子を引っ張った青年も、2/4は4/4のような人生を踏む。誰も悪じゃない。殺人を避けた人・避けなかった人、これらの人のした行為は悪ではない。『悪は存在せず』イランの軍人に罪の意識を持たせる(与える)ことに問題がある。死刑制度にも問題がある。死刑制度をとっている、日本、アメリカ、の国々にも。誰かが関わって死刑を執行しているということ? 死刑制度だけではなく、私たちの役割は体制の見張り番だということ?
私たちにできることは体制にnoといって立ち向かうパワーだということ?
もう一度観て、ゆっくり考えて書きたいが、ひとまずこの辺で。
凄く大きな問題提起
4つのエピソードから成る。一番最初のエピソード、幸せでどこにでもある日常が続いていたので最後は腰を抜かすほどショックを受けた。そのためかエピソードの2と3の内容は忘れた(ショックのためか寝不足か寝落ちしてしまった・・・)。
最後のエピソードは見ることができた。ドイツに住んで勉強しているであろう女の子が「おじさん」に会いに来る。砂漠みたいな不便な場所に住んでいるおじさんは医者。妻と小さい農園と養蜂場をしている。そのおじさんの過去と自分との関わりに女の子はショックを受ける。
こういうテーマの映画制作を支援し賞を与えるドイツの、現実を見つめる眼差しに私はいつも敬意を覚える。
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