劇場公開日 2020年10月31日

  • 予告編を見る

「世界観が怪しくて、かつ妖しくて良かった。」狭霧の國 ウシダトモユキ(無人島キネマ)さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0世界観が怪しくて、かつ妖しくて良かった。

ネットの映画ニュースか何かで「人形劇+怪獣特撮」って目にした瞬間に、僕の中で何かがドクドクッ!と“催した”。まだ観てもないのに一目惚れみたいな感じ。名古屋ではやっていなくて京都みなみ会館。35分間の短編のためにわざわざ京都まで行くのか?って思わなくもなかったけど、ちょうど大阪に用事もあったし、なんだか「京都にわざわざ観に行くのにピッタリな雰囲気」の映画だなって思ったしということで観に行った。

そして、わざわざ観に行ってよかった。

明治時代の霧深い山奥、ワケ知り風な老婆、盲目で目隠しで着物の女、双子の弟、首長の化物。

映画を構成するひとつひとつの要素と、その連なりが醸し出す「ある種の世界観」が、なんていうかとても怪しくて、かつ妖しくて良かった。性的な描写や設定は全くと言っていいほどないのに、勝手に江戸川乱歩の本のようなイヤラシさを感じたりもしたし、横溝正史の本のような薄気味悪さを感じたりもした。

本作の主役である2人というか「2体の人形」は、女は目隠し布で、男は長い前髪で観客にほとんど目を見せない。たぶん生身の人間と人形がいちばん違うのは「目に宿る生命感」なんだろう。だから人形の目を隠すことによって、観客は主役2人を人間だとは思わないまでも、人形だということを少し忘れて観ることができる。

首長の巨大な化物は、怪獣特撮への思いが溢れる素晴らしい造形だったし、暴れっぷりもなかなか良かった。ただ僕の思う「怪獣」とは少し違った。僕の思う怪獣とは、「人間の日常の中に突如現れ、圧倒的な巨大さでもってその日常を破壊する異物」という存在なんだけど、本作に登場する首長の化物は、前述した「ある種の世界観」においての異物感がなく、その世界の神とか、神の使いとか、またはヒロインの怒りや呪いの具現化とか、そういうもののように感じられた。だからダメかと言ったら全然そうではなくて、その化物もとても良かった。

また機会があれば観たいなと思うし、「この先何十回でも観たい」っていうハマり方をする人もいるだろうなと思う。

ウシダトモユキ(無人島キネマ)