劇場公開日 2020年6月13日

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「“向いていない”ことこそ向いている」なぜ君は総理大臣になれないのか 室木雄太さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5“向いていない”ことこそ向いている

2020年7月14日
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鑑賞方法:映画館

悲しい

知的

難しい

大島監督がフォーカスする人間に惹かれ、彼が長期密着してきた人物に興味関心があり鑑賞。強い地位と発言権の会得に邁進するだけで何十年も苦闘させるこの国の政界。確かに、政治家は強かな人間こそ務まるのでしょう。しかし、“腐敗した病巣=霞ヶ関”での出世社会において特異な存在は、長きに渡り家族と地元後援者の支えを受けながら、盤石な保守地盤で小選挙区当選に挑み続ける。宛ら選挙大河ドラマな本作で描き出される、自らに十字架を課す“年齢”への縛りや、対“世間の空気”への重圧から醸し出される悲壮感。51対49の論理で、51の側が49の思いを背負う覚悟を…印象的な言葉に象徴される純粋な思想や覚悟・行動に、今からでも声援を送りたくなる。ボンボンやエリートさんの生活を連想していた後に映し出される、凡そ代議士らしからぬ質素な生活こそ、この家族の純な願いを想起させるのだ。無所属で居るべき矛盾…自問自答を繰り返す車内の外から風に乗って聞こえてきた「クラリネットをこわしちゃった」のメロディが…“どうしよう”のフレーズがまた、なんとも皮肉で象徴的なシーンでもあるのだ。

室木雄太