「いまひとつピンと来なかった」秘密への招待状 耶馬英彦さんの映画レビュー(感想・評価)
いまひとつピンと来なかった
よく出来た映画だとは思うが、いまひとつピンと来なかった。
ジュリアン・ムーアは好きな女優のひとりで、特に米アカデミー賞主演女優賞を受賞した「アリスのままで」は、表情豊かなこの人ならではの演技が全篇を通じて光っていて、とてもよかった。若年性アルツハイマーを扱ったコンテンポラリーな作品でもあり、未鑑賞の方は一度は観てもいいのではないかとおすすめする。本作品で演じたテレサ役でも卓越した演技力を存分に発揮していた。
インドでソーシャル・ワーカーとして働くイザベルを演じたミシェル・ウィリアムズも演技派で、本作品でもジュリアン・ムーアの相手役としての存在感のある演技は申し分ないと思う。しかし作品としては、イザベルがニューヨークにまで来た背景が弱い。支援がほしいという必死さの演技の割には、こないのだ。イザベルが面倒を見ている子どもたちは比較的恵まれている子どもたちではないかと思う。
インドではモンサント社(バイエル社)による種子と肥料と農薬の押しつけで、農家は多額の借金を背負い、労働力不足を児童労働でまかなっている現状がある。都市では貧しい親は子供に労働をさせ、雇い主は殴る蹴るなどして重労働を強いているという報告もある。ユニセフによれば、5歳未満の子供の死亡率は日本の17倍である。
イザベルの周囲の子どもたちは寝る場所と食料を与えられ、強制労働をさせられることもない。比較的恵まれていると思うのはそのあたりだ。他の地域には食べ物も寝る場所もなく明日の命さえ知れないという逼迫した子どもたちがいるはずで、そういうシーンがあればイザベルの必死さを納得できる裏付けができたと思う。