劇場公開日 2021年11月12日

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「思考や心の声がダダ洩れる“ノイズ”の設定はユニークだが」カオス・ウォーキング 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)

3.5思考や心の声がダダ洩れる“ノイズ”の設定はユニークだが

2021年11月21日
PCから投稿
鑑賞方法:試写会

楽しい

原作はヤングアダルト向けSF小説のベストセラー連作だそうで、製作陣はきっと「ハンガー・ゲーム」のような世界的大ヒットとシリーズ化を狙っていただろう。約200年後に太陽系外の地球によく似た環境の惑星“ニューワールド(新世界)”に入植した人々の物語。地球から乗ってきた巨大宇宙船は着陸時に大破し、ハイテクや家電のたぐいはおおかた失われてしまったようで、人々は小さな町プレンティスタウンでアメリカの西部開拓時代のような暮らしをしている。

本作のユニークな点は、考えたことが映像と音(声)で他人に漏れてしまう、“ノイズ”と呼ばれる現象が環境の影響によって男たちに生じていること。女性にはノイズは生じないが、トッド(トム・ホランド)が物心ついた頃には女性たちは死に絶えていた(その理由は後で明らかになる)。そこへ、地球から来て墜落した宇宙船の生存者ヴァイオラ(デイジー・リドリー)が現れ、女性を初めて見たトッドは「かわいい」とか「キスしたい」などと思うのだが、これが全部相手にダダ洩れる様子が気まずくて笑いを誘う。

中盤からは、町のリーダーであるプレンティス(マッツ・ミケルセン)から追われる身となったヴァイオラとトッドの逃避行という展開になる。「スパイダーマン」シリーズのホランドと「スター・ウォーズ」シリーズのリドリーという“動ける俳優”2人がせっかく主演しているのに、アクション要素が少ないのはもったいない。

新世界の先住民である種族を悪者と決めつけたり、差別主義的な考え方の独裁者に人々が盲従したりといった、過去や近現代の問題を風刺する社会派のスタンスはわかりやすい。個人の考えがたちまち露見してしまうのも、SNS全盛の昨今に重ねやすいだろう。ただ、面白くなりそうな要素がたくさんあるのにうまくかみ合っておらず、散漫なストーリーになっているのが惜しい。本作は4年前に一度完成していたが、試写の反応があまりに悪く、脚本の書き直しと再撮影を経てようやく今年公開になったと聞く。流れやバランスの悪い筋は、おそらくそうした製作過程の紆余曲折も影響したのだろう。続編製作とシリーズ化は残念ながら厳しそうだ。

高森 郁哉