劇場公開日 2021年5月14日

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「【奇跡を呼ぶもの】」海辺の家族たち ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0【奇跡を呼ぶもの】

2021年7月25日
iPhoneアプリから投稿

フランスの今を、少し角度を変えて見つめた佳作だ。

若者が少なくなって、高齢化が進んだ地域なんて云うと、日本のことかと思ったりするが、先進国は概ね少子高齢化が大きな社会問題になっている。

税率のバカ高い北欧の高福祉国家であれば、ナーシング・ホームが充実していて、老後の心配は少ないかもしれないが、フランスなどは移民も多く、社会福祉でカバーできる部分は大きくはなく、家族の負担も少なくはない。

フランスは、過去の植民地の関係もあって、アラブ系の移民の非常に多い国だ。

この映画の舞台となる入江は、フランス最大の港町で、パリ、リヨンに次いで3番目の人口を有するマルセイユの近郊にある。
マルセイユは港湾都市であることもあり、フランスの都市の中でも移民が非常に多く、そして、治安も良くない。

バックパッカーをしていた時に、マルセイユの治安のあまり良くない通りにある、古い、縦に細長い、手動開閉式のエレベーターの超格安ホテルに泊まったことがあった。

鍵は壊れてるわ、シャワーからは水しか出ない。フロントはアラブ人で、英語は当然通じないし、あのギョロリとした目が怖くてモンクは言えないわで、パイプベッドをドアのところに移動させて、外からドアを開けられないようにして寝たことを思い出す。
ジム・ジャームッシュの「ミステリー・トレイン」に出てくるメンフィスのアーケード・ホテルの方が何倍もマシな感じだ。
でも、旅の大きな思い出だ。

僕の個人的な体験で横道に逸れたが、こうした移民の増加や治安への不安で、少し郊外の昔ながらなフランス人の多く暮らす場所に新たな住居を求めたり、別荘を持つ人が増えているのだ。

これが物語の背景だ。

作品に描かれる家族の話やエピソードは、ご覧になった通りだ。

悲しいものもあれば、滑稽なもの、フランス人ならでは(?)のような話もあるし、これらを、良し悪しというより、誰もが目撃するような視線で描かれているのだ。
そのため、どこか自分と重なるという人もいるかもしれない。

ただ、最後のひとつのエピソードを除いてだ。

きっと、この映画は、この人々の優しさやウィットに溢れた対応を見せたいがために、これこそが本来のフランス人ではないのかと示したいがために、ずーっと物語を引っ張ったのではないかと思う。

そして、叫び、声がこだまする場面を通じて、こうしたものこそが、奇跡(父の機敏な反応)をもたらすのだと、希望を見せてみたのではないのだろうか。

ワンコ