「瞬時に魅了するのではなく、本当に少しずつ、じっくりと染み込んでいく」海辺の家族たち 牛津厚信さんの映画レビュー(感想・評価)
瞬時に魅了するのではなく、本当に少しずつ、じっくりと染み込んでいく
この映画のまなざしは、マルセイユ近郊の陽光あふれる”海辺の街”から片時も離れることがない。つまり冒頭からラストまで、全てがこの街の中で完結する物語。しかしそこには兄妹たちの久々の再会によってもたらされる様々な人生や時間の流れが感じ取られ、さらには海外からやってくる難民というファクターが、非常に興味深い”さざなみ”をもたらしていく。その点、この構造は瞬時に観る者を魅了するというよりは、ジワジワと心を掴んでいくといった方が当てはまるのかも。とくに中盤で思いがけない死が人々に暗い影を落とすあたりから、映画を取り巻く空気感や観る者を引きつける磁力が大きく変容していくのを感じてやまなかった。風景画を彩るように丁寧に吐息を重ねていく筆運びによって、この映画が終わる頃、ああもっと彼らの物語を観ていたい、と感じる私がいた。その時になってようやく、自分がこんなにも本作に魅了されていたことに気づかされるのだ。
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