ANNA アナ : 特集
「またそれか、リュック・ベッソン」と思った?でも今回は“良いベッソン”
スーパーヒロイン、二重スパイ…アクションファンを絶対に損させない一本!
「レオン(1994)」「ニキータ」のリュック・ベッソン監督が、“十八番”とも言えるジャンルで殴り込みをかけてきた。新作「ANNA アナ」(6月5日公開)は、スーパーヒロインが戦い、躍動するアクションエンタテインメントだ。
とはいえ。ベッソンの十八番であるがゆえに、設定の既視感は否めない。物語のあらすじを読んで、「またそれかい」とのけぞってしまう人も、少なからずいるだろう。
しかしながら。実際に本編を鑑賞すれば、アクションファンは「ベッソンの良いところが全部出ている!」と恍惚の表情を浮かべるに違いない。好きな要素、全部のせ。洗練されたルックスとアクションの“美”に、骨の髄まで痺れてもらおう。
【美女が華麗に戦い、壮絶に勝つ】…ってベッソン、またそれ?
でも大丈夫、かなりの良作! アクション好きは“見ないと損”
物語の舞台は1990年代のソ連。諜報機関KGBによって造り上げられた殺し屋アナが、国家に仇なす人物を次々と消し去っていく。
しかし、アメリカのCIAによる巧妙な罠にはめられ、アナは驚がくの取引きを迫られる。それは、「KGBを監視する“二重スパイ”として活動しながら、長官を暗殺せよ」というものだった……。
◆“ヒロイン・アクション”と言ったらこの人、リュック・ベッソン!
美しき女性暗殺者が主人公の「ニキータ」、孤独な殺し屋と12歳の少女の精神的な繋がりを描いた「レオン(1994)」。フランスの国民的英雄の生涯を映画化した「ジャンヌ・ダルク」、ごく普通の女性が超人的な能力に覚醒する「LUCY ルーシー」。
これまでベッソン監督は、繰り返し“戦うヒロイン”を、迫力たっぷりに描出してきた。女優の素質を見抜くその目はまさに慧眼、「レオン(1994)」ではナタリー・ポートマン(出演当時13歳!)、そして「フィフス・エレメント」ではミラ・ジョボビッチを発掘しており、彼女たちはその後一躍スターダムを駆け上がっていった。
本作では、主演にロシア出身の超新星モデルを抜擢。共演にはヘレン・ミレンら、独自の世界を切り開く演技派がそろい、ニューヒロインと得も言われぬ化学反応を引き起こしている。
◆こんなベッソン、見たかった! 今回は“良い部分”がダダ漏れ!
同監督のフィルモグラフィと照らし合わせると、本作はお世辞にも斬新とは言い難い。ところがどっこい、「むしろ、それが “良い”」のだ。「こんなベッソンが見たかった!」と快哉を叫びたくなるほどの、面目躍如を見せている。
とかく、ヒロインによるアクションの質が非常に良い。アナがわずか5分で40人の男を屠ったり、割れた皿を武器に華麗に舞うさまなど、見どころ満載だ。
スタント&ファイト・コレオグラファー(つまり殺陣師)には、「ボーン・アイデンティティー」「LUCY ルーシー」や岡田准一主演「ザ・ファブル」を手掛けたアラン・フィグラルツが参加しているだけに、その爽快感も納得。
【この美女は誰?】主演はロシア出身のスーパーモデル!
共演にはヘレン・ミレンら実力派…曲者たちが“殺って、魅せる”
次はキャストについて言及していく。ひときわ目を引くのは、やはり主演のサッシャ・ルスだ。
ベッソン監督はモデルおよびダンサー出身の女優を好んで起用している(「コロンビアーナ」のゾーイ・サルダナ、「ヴァレリアン 千の惑星の救世主」のカーラ・デルビーニュら)が、今回もその系譜といえる。
◆主演は新星サッシャ・ルス ロシアの妖精が豪快アクション!
16歳でランウェイデビューを果たした、ロシア出身のモデル。「ヴァレリアン」では脇役で出演しており、その存在感がベッソン監督の目に止まり、今回の抜擢につながった。“妖精”と呼ぶにふさわしいルックスで、表はファッションモデル、裏は暗殺者という“2つの顔を持つ”アナ役を、魅力たっぷりに体現している。
一方で、「ジョン・ウィック」ばりのハイスピード・アクションを披露。長くしなやかな手足が描く軌道は、キアヌ・リーブスにはない妖艶さを湛えている。約1年間にわたりマーシャルアーツの特訓を積むなど、役作りでは長期間の準備に身を捧げており、その成果はスクリーンに如実に現れている。
ハッとするほどの輝かしい美貌を見せたかと思えば、数秒後、血しぶきを浴びながら銃を構える。そのギャップが狂おしい。
◆ヘレン・ミレン、今度はロシア語訛りで“パワハラ上司”役!?
「クィーン」などのアカデミー賞女優ヘレン・ミレンは、本作ではアナを鍛えるKGBの上司オルガ役に。タバコをスパスパと吸いながら、強烈なロシア語訛りの毒舌で無理難題をふっかけるなど、その立ち居振る舞いはまさに“パワハラ上司”だ。
しかし、悪戦苦闘しながらも食らいついてくるアナに対し、職務を越えた感情が芽生え始めて……。当初は罵りまくっていたのに、段々とデレてくる過程がなんとも微笑ましい。
◆ルーク・エバンス&キリアン・マーフィも好演 アナの魅力にメロメロ!?
「ワイルド・スピード」シリーズではミレンと親子役を演じているルーク・エバンスは、本作ではKGBエージェントのアレクセイ(肉体派)に扮する。アナをKGBにスカウトし、オルガとともに育成する一方で、深い渓谷に身を投じるような恋に落ちていく。
さらに「ダンケルク」などのキリアン・マーフィが、アナに二重スパイの使命を課し、次第に恋愛感情も抱いていくCIAエージェントのレナード(頭脳派)に扮する。アナはKGBとCIAだけでなく、アレクセイとレナードの間でも揺れ動いていく。
◆「T-34」のあの人も出演…しかもこんな役に!? 脇役も必見!
目を向けるべきは、メインキャストだけではない! 特筆すべきは、アナのかつての恋人役を担うアレクサンドル・ペトロフだ。
ペトロフは映画ファンの間で話題を呼んだ「T-34 レジェンド・オブ・ウォー」に主演していた俳優。そんな彼が、本作では「そうくるか……!」という驚きの展開を見せている。
さらに、パリのモデル事務所でアナと絆を深めるモード役、レラ・アボヴァが印象深い。目が覚めるようなショートカットと、透き通るような瞳が見るものを魅了する。
ベッソン監督は、存在感を放った脇役女優を次作の主演に抜擢する傾向(「フィフス・エレメント」のジョボビッチが「ジャンヌ・ダルク」に、「ヴァレリアン」のルスが「ANNA」に主演)があるため、次はアボヴァが主役の作品が製作されるかもしれない。そういう意味でも、目が離せない女優だ。
【物語】昼はモデル、夜は暗殺者 そしてKGBとCIAの二重スパイ…
サスペンスと“ひとさじの笑い”が、観客を陶酔の境地へ導く――
本作がすごいのは、なにもアクションやキャストだけではない。ドラマとスリル、そして周到に用意されたサプライズが、観客を一時も飽きさせない。
◆暗殺、KGB、CIA… アクションファンの大好物がてんこ盛り!
アナはKGBに所属しながら、CIAのスパイとしてKGBの動向を探る。昼はモデルとしてフラッシュを浴び、夜は暗殺者として闇にまぎれる。そしてKGB長官からもたらされる暗殺命令を忠実にこなしながら、その長官の暗殺をCIAから命じられる……。
アクションファンが「それ! 好き!」と膝を打つような要素が、ふんだんに盛り込まれている。肉弾戦の興奮、人間ドラマ、展開のスリルが有機的に連鎖し、陶酔の映画体験をもたらしてくれるのだ。
◆絶妙なサプライズと笑い 一時も飽きさせない、興奮の119分!
もう一つの特徴は、ストーリーテリングが直線的ではない、という点だ。映画は1985年のモスクワからスタートするが、次のシークエンスでは1990年のパリへ。その後も時系列をシャッフルし、舞台と時代を目まぐるしく移動。伏線の展開と回収を交互に繰り返しながら物語は進んでいく。
アナはなぜ、KGBに身を置くのか? 彼女が求めるものは手に入るのか? 観客の予定調和をぶち壊し、信じていたものがひっくり返るサプライズが連続。さらに「TAXi」シリーズなどで見せるベッソン監督独特のユーモアがスパイスのように効く。
その結果、鑑賞中、心はアップダウンを繰り返し、一瞬たりとも飽きがこないのだ。