「廃村で大自然と共生する人々が織りなす剥き出しのドラマに胸が締めつけられます」ハニーランド 永遠の谷 よねさんの映画レビュー(感想・評価)
廃村で大自然と共生する人々が織りなす剥き出しのドラマに胸が締めつけられます
電気も水道もない北マケドニアの廃村に年老いた母と暮らすハティツェ。養蜂を生業とする彼女はハチと共生するため巣から蜂蜜を半分しか取らないと決め、僅かな蜂蜜を首都スコピエの市場で売って生計を立てていた。そんな廃村に沢山の牛を引き連れて突然現れたトルコ人の一家が引っ越してくる。しばらくは親切に身の回りの世話を焼くハティツェだったが、絶妙なバランスの上に成り立っていたはずの二人の生活が少しずつ崩れ始める。
一切のナレーションを排して廃村に暮らす人々にぴったりと寄り添うカメラが映し出すのは美しい大自然とその中で暮らす人間の清貧、無邪気さ、逞しさ、そして剥き出しの感情。ここまで赤裸々な人間模様を一切の演出なしに引き出すに至る人間関係を構築するだけでも途方もない時間がかかったことでしょう。自然と共生することの崇高さを丁寧に掬い上げたカメラは今度は一転して人間の欲望が破壊する自然の儚さを切なく見つめる、90分に満たない短い尺に封じ込められた3年間のドラマはずっしりと重く、胸を締めつけられました。
今年のオスカーで長編ドキュメンタリー賞と国際映画賞に同時にノミネートされたのも納得の圧倒的な存在感を持つ作品です。
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