キネマの神様 : 特集
菅田将暉×永野芽郁×野田洋次郎でつむぐ
日本版「ニュー・シネマ・パラダイス」 コロナ禍を
乗り越え完成した奇跡の山田洋次監督作、堂々の公開!
おそらく日本で最も新型コロナウイルスの影響を受けながら、様々な人々の思いが結集し危機を乗り越えた“奇跡の映画”。「キネマの神様」が、ついに8月6日から公開される。
主役は沢田研二をはじめ、菅田将暉、永野芽郁、野田洋次郎ら。人気と実力と経験を備えた豪華な面々が、非常にレアなコラボレーションを果たしていることも大きな見どころ。監督は日本を代表する巨匠・山田洋次が務め、日本版「ニュー・シネマ・パラダイス」とも言える物語を紡いだ――。
8月はド派手な洋画大作や、ファミリー向けの作品が続々と公開される。もしもあなたが“じんわりと温かい感動”を得たいなら、この「キネマの神様」がおすすめだ。本特集では、その魅力を①物語とジャンル、②完成までの道のりにあったドラマ、③キャストの演技の3つに分けて詳述していく。
ポイント①:日本版「ニュー・シネマ・パラダイス」
菅田将暉×永野芽郁×野田洋次郎が演じる“青春物語”
●あらすじ:日本映画黄金期 監督を目指す青年は、恋と夢を追いかけ成長する
ギャンブル&お酒好きが原因であちこちに借金をこさえ、妻・淑子をはじめ家族にも見放されたダメ親父のゴウ。今はこんな体たらくだが、かつては映画の撮影所で助監督として働いていた。
あのころのゴウは、映画を愛し、最高の映画を監督することを夢見ていた。親友の映写技師・テラシンとともに、時代を代表する名監督やスター俳優に囲まれながら、がむしゃらに夢を追い求め、青春を駆け抜けていた。
映画会社・松竹の100周年を記念し、山田洋次監督が原田マハによる小説「キネマの神様」をオリジナルの映画作品へと昇華し実写化。物語は現在のゴウが、数十年前の“映画に魅せられていた青春時代”を回想する形で進む。映画への愛、映写技師との友情、恋、夢を追いかけること、そして“あの頃”へのノスタルジー――不朽の名作「ニュー・シネマ・パラダイス」を彷彿させる展開は、あなたの胸をいっぱいにさせるはずだ。
●人気若手キャストが豪華共演! この組み合わせ、ワクワクが止まらない!
素晴らしいところは無数にあるが、あえてここで強調したいのは、過去パートのメインキャストについて。日本トップクラスの人気俳優・菅田将暉が若き日のゴウ、そしてNHK連続テレビ小説「半分、青い。」の熱演も記憶に新しい永野芽郁が食堂の看板娘に扮している(「帝一の國」での共演が頭をよぎる!)。
さらにロックバンド「RADWIMPS」のボーカル&ギターとして絶大な人気を誇る野田洋次郎が、若き日のテラシン役を純朴に演じている。「トイレのピエタ」(15)で日本アカデミー賞の新人俳優賞を獲得しているだけに、演技力は折り紙付きだ。
菅田、永野、野田が映画と夢と、そして恋をめぐる三角関係を体現するという豪華さ、コラボレーションの希少性がすごい。さらに主題歌は、RADWIMPS feat.菅田将暉による「うたかた歌」。劇中には野田がアコースティックギターを弾き語りながら、菅田に恋の相談をするというシーンもあるのでお楽しみに!
ポイント②:撮影中止、主役の交代、そして公開延期…
コロナ禍を跳ね飛ばし、ついに公開される奇跡の映画
本作がほかとは違う最大のポイント。それは、コロナの影響を受け、撮影中止および主演の交代という悲劇に見舞われながらも、様々な人々の思いから再始動し、ついに完成した映画であること。
物語と現実がリンクし、計算では到達できないオーラを獲得した、その経緯を振り返っていこう。
●完成までの道のりを振り返る
映画「キネマの神様」が製作される。そんな第一報は、2020年1月25日にもたらされた。主演はお笑い界のレジェンド・志村けんさんと、若手No.1と呼び声高い菅田将暉(現在と過去のゴウ、2人1役)。監督は山田洋次とあっては、映画ファンは胸の高鳴りを抑えられなかった。
同3月1日にクランクインし、菅田が主役の過去パートを撮影。しかし3月20日、現在パートの撮影を間近に控えた志村さんが、新型コロナウイルス感染症により入院。同29日、肺炎により逝去した――志村さんにとって「鉄道員(ぽっぽや)」以来、約21年ぶりの映画出演(実写作品)となるはずだった。
日本中が悲しみに包まれるなか、間もなくして日本政府による緊急事態宣言が発出。撮影は長期中断を余儀なくされたほか、あらゆる困難が降りかかった。先行きは暗澹たるものだった。それでも山田監督やスタッフ陣は撮影再開を信じ、準備の手を緩めなかった。
撮影休止中、山田監督は脚本を再考することに。コロナ禍を物語に組み込み、リアルとフィクションを交錯させることで新たなステージを創出した。そして、かつて志村さんと同じ事務所の先輩・後輩として仲がよく、TV番組「8時だョ!全員集合」「ドリフ大爆笑」などで幾度となく共演してきた沢田研二が、遺志を継いで現在のゴウ役を務めることとなった。
万全の感染症対策を施し撮影が再開。そして8月6日。ついに公開の時を迎える。
●奇跡の映画と呼ぶにふさわしい一作
撮影直前の主演が感染し……日本で最も新型コロナウイルスの影響を受けたといっても過言ではない本作。撮影中止がそのまま製作断念になっても、なんら不思議ではない状況だった。
しかし諦めることはできなかった。「今の世に、この作品を届けたい。届けなければならない」。山田監督やスタッフの強い思い、さらに沢田らキャストたちの尋常ならざる努力、そして観客の願いは、“キネマの神様”に通じた。公開され、映画館で目撃することができる奇跡を噛み締めながら、エンドロールを眺めてほしい。
ポイント③:主演、共演陣もすさまじく豪華
沢田研二の漢気、北川景子の覚悟…渾身の熱演を観よう
最後に、そのほかの出演者や監督について詳述し、この特集を締めくくろう。
●沢田研二 志村けんさんの意思を継ぎ、入魂の力演
前述の通り、志村さんと縁が深かった“ジュリー”こと沢田研二が主演に。歌手として絶大な人気を誇っただけでなく、長谷川和彦監督作「太陽を盗んだ男」などで俳優としての唯一無二性を発揮した沢田だが、本作では“かつては映画を愛していた”はずなのに、現在はギャンブルと酒に依存しきり、家族にも迷惑をかけっぱなし“現在のゴウ”に扮している。
この役を引き受けることは、想像を絶する勇気が必要だったはずだ。どんな演技をしても、何をしても、観客の頭には志村さんがちらつき、比較されることはわかりきっていただろう。演じる難易度はおそらく、ここ100年でもトップクラスなのではないか。それでも引き受けたジュリーの覚悟と、自らの個性を出しつつ志村さんのバトンもつないでみせた“神業”に涙を禁じえない。
現在のテラシンに扮した小林稔侍との友情、妻役・宮本信子との夫婦愛も見どころで、彼らの味わい深いアンサンブルが物語に奥行きをもたらしている。余談だが、終盤にジュリーが歌う場面がある。さて、選曲は……ぜひ本編で確かめてほしい。きっと、頬に熱い涙が伝うだろう。
●北川景子 原節子ら往年の名女優たちがモチーフの難役、覚悟の好演
演技力とその存在感においても日本トップクラスの女優となった北川。本作では過去パートの重要人物であり、若き日のゴウを導くスター女優・園子を演じている。
映画ファンが観ればピンとくるだろう、園子は明らかに原節子ら、往年の名女優たちの要素が詰まったキャラクターである。となると北川には、日本映画史に名を刻む大先輩たちの模倣をしながら、それ以上に彼女なりの価値を加えなければならない、というあまりにも過酷なミッションが課せられたことになる。
沢田とは別の理由でとてつもない難役だったが、北川はこの挑戦を見事に乗り越えている。可憐さと艶やかさを全面に出しながら、どっしりと肝が座った器の大きさも体現。改めて、彼女の実力に惚れ惚れすること請け合いだ。
●監督・山田洋次 日本映画“最高”の巨匠が、豪華俳優陣の“観たことない一面“を引き出した
「幸福(しあわせ)の黄色いハンカチ」「男はつらいよ」「東京家族」などで知られる、日本を代表する巨匠・山田洋次、89歳。東京大学を卒業後、1954年に松竹でキャリアをスタートさせた同監督が、松竹映画100周年記念として、同社の黄金時代を舞台とした“内幕もの(業界内の実態)”を紡ぐ……要するに彼にしか撮れない映画を創出したのである。
ここで強調したいのは、山田監督が豪華俳優陣の“観たことがない一面”をキャメラに収めている点。上述の野田洋次郎の弾き語りは、撮影直前に山田監督が野田にオーダーし、急遽実現したもの。さらに印象的だったのが、寺島しのぶがリクルートスーツで就職活動に励むシーンもあり、「初めて観た」とハッとする瞬間に巡り合うことができた。
また過去パートの設定は、明言されていないものの、おそらく日本映画黄金期の1950~60年代あたりをベースにしているのだろう。背景などのVFX監修は「ALWAYS 三丁目の夕日」「永遠の0」などの山崎貴が担当しており、歴戦の匠たちが画面の細部に“神”を宿している。
◆見どころまとめ!
・過去パートの主役・菅田将暉×永野芽郁×野田洋次郎の貴重コラボのワクワク感
・コロナ禍の影響(主役の交代など)を受けながら、それを乗り越えた作品自体の製作秘話
・沢田研二の漢気、北川景子の覚悟、巨匠・山田洋次監督の演出術