「思春期の少女と90年代韓国」はちどり(2018) バラージさんの映画レビュー(感想・評価)
思春期の少女と90年代韓国
ほとんど何の情報も入れないまま、主人公の中学生の顔がアップになったチラシのデザインになんとなく惹かれて観たが、非常に興味深く、かつ面白かった。本作は中学生が主人公なので青春映画というよりも思春期映画、あるいは少女映画と言ったほうが適切だろう。高校生を描いたいわゆる青春映画というのはたくさんあるし、小学生を描いた子供映画というか児童映画というのもわりとあるが、中学生を描いた映画というのは意外に少ない。1981年生まれでこれが初監督だという女性監督キム・ボラ自身がそれを意識して女子中学生の映画を撮ったと語っている。
臨床心理学者の故・河合隼雄が、子供から大人に変わりゆく思春期の内面では自分自身でも言語化できないような凄まじい変化が起きていて、特に思春期の少女の内面は男性にはほとんど理解不可能に近いと書いていたが、キム・ボラ監督はそれを見事に描き出している。僕は男なんで女性特有の感覚に若干違和感を感じるというかしっくり来ないというか馴染みきれないところも少しあったし、作風がかなり淡々としてるので中盤で少し眠くなるところもあったんだが、それを差し引いてもとても良い映画だった。主演のパク・ジフや女性講師役のキム・セビョクをはじめとする役者陣もみな素晴らしい。
映画に描かれる韓国の1994年という時代の空気もとても興味深かった。民主化運動の末に軍事政権が終わり文民政府の時代となった90年代だが、政治体制が変わっても社会風俗や生活文化は一夜にしては変わらない。家庭には強い家父長制が残り、また男尊女卑文化も根強く、学歴主義と相まって男児優先文化が家庭を、そして社会を支配していたことがよくわかった。それでいて誰かを悪者にしたりはせず、父親や兄もまたそのような文化のある種の犠牲者として描いているのも興味深い。
子供から大人へと変わろうとする少女と、新たな国へと生まれ変わろうとする韓国の歪みと矛盾と苦しみが二重映しに描かれているのも監督の意図通りだったようで、韓国映画の幅広い底力を見せつけられた。