「テーマと結びついた美しい映像が非常に印象的。」はちどり(2018) yuiさんの映画レビュー(感想・評価)
テーマと結びついた美しい映像が非常に印象的。
これが長編映画の初監督作とは信じられないくらいに、テーマと映像が見事に一体化した作品!
表題の「はちどり」はもちろん、主人公ウニ(パク・ジフ)を指しています。自分が何者なのか良く分からないままに、様々な圧力や不条理に絡め取られないようにもがく姿がハチドリと重ね合わされています。しかしウニは、自分が何者であるかを自覚する以前に、自分のことを語る術も持たず…、会話は言い淀みの中で宙に浮き、直接感じたはずの怒りや悲しみの言葉も呑み込むだけ。家族すらも、その存在を見落としがちになります。
本作で特に印象に残るのは、映像の美しさ。やや逆光気味に人物を照らす柔らかな光は、ウニたちの姿を包み込み、肌の瑞々しさを一層際立たせています。この画面は、恐らく単に人物を美しく撮ることを意図して構成したものではなく、ウニ自身が認識している存在感の薄さを、「透明感」という形で表現しているのではないかと推測。同じ自宅の、父や母のいる居間の照明が、真上に置かれ、かつほとんど回り込まないために陰影が強調されていることでその確信はより強まりました。現実世界を明瞭でコントラストの強い映像で表現したのではないかと。本作ではウニの姿を後ろから捉えた映像が度々登場しますが、いずれも極端に被写界深度を浅く(ピントの合っていない部分が多い)しています。この映像の意図もまた、ウニが世界から浮き上がっている状況を映像的に表現したものではないかと。
言葉に頼らず内面を語る物語なので、確かに少し意図が理解しにくい描写もあるのですが(ウニが母親に声を掛ける場面など)、それ以上の映像の雄弁さに圧倒されました!テーマ的に『82年生まれ、キム・ジヨン 』と共通した部分が多く、『キム・ジヨン』の前日譚として観ることもできそうです。