「かなり良かった。」おらおらでひとりいぐも まゆうさんの映画レビュー(感想・評価)
かなり良かった。
実写化は難しいタイプの作品だと思う。たぶん漫画や活字の方が世界観が作りやすいだろう。
若いうちはあまりピンと来ないかもしれない。子育てがひと段落して、身体の節々が痛く疲れやすくなり、高齢の親が頻繁に通院し始める頃になって、やっと老いの始まりに立たされたことに気づく。それまではただ夢中なのだ。田中裕子すらまだまだ。ばっちゃの醸し出す雰囲気には全く勝てない。
1回目はウトウトしてしまい、それでも妙に消化不良というか気になって仕方なく、2回目鑑賞。この時は色々気付きが多く面白かった。クライマックスは言わずもがなハイキング〜墓参りのシーンかと思われるが、素晴らしかった。「墓参り」という行為の意味がようやく実感できたような気がする。山歩きして乾いた自分の喉を潤した水を、墓の花瓶に注ぐ。死んだ人と、命をつなぐ水を分かち合う。山で自ら摘んだ花を供える。こんな素敵な墓参りは初めて見た。画的にもこのまま終わってもいいくらいだが、ちゃんとこの後、現実的なシーンが続くのが良い。雪かきで腰を傷め、マンモス→通院→奇跡のような命だ。「おら、ちゃんと生きたか?」には熱い静かな涙が込み上げる。よく出来ているなぁと思う。
ここまで来ると、冒頭でも出て来た、屋根裏を走る鼠?の足音も違って聞こえる。いったん神棚を写してからカメラが移動するため、まるで目に見えない小さな神様が家に住み着いていて、家の中を走っているように見えるのだ。最初は単なる独居老人の独り言か、認知症か、みたいな印象だったのに、段々あちらの世界とこちらの世界が繋がっているような気がしてくるから不思議だ。日常が神秘的になっていく。老いるってある意味そういう事だ。あっちの世界に近くなっていくのだ。
故郷が岩手という土地であることも忘れてはいけない。というより、タイトルからも分かる通り、むしろ岩手あってこその作品と言える。岩手といえば、宮沢賢治や柳田国男の遠野物語など思い浮かぶ人も多いと思うが、山の神、里の神、河童や天狗などの土着信仰が、あの山深い寒い東北の地で脈々と受け継がれてきた背景がある。岩手弁でセリフが語られる時、この作品がもつ独特の不思議さ、可笑しみ、何億年もの気の遠くなるような遥かな時間がしっかりと裏打ちされて、説得力を持つ。そしてエンディングは、豊かでコミカルな、温かみのある楽しい雰囲気を大切にしつつ、また次の命へバトンを繋げていく。
故郷の言葉というのは、血のようなもの。
全身を循環する、拍動する。その人そのものだ。私はヒダカモモコではないし、違う生き方や感じ方、考えもあるけれど、私は私の「おらはおらでひとりいぐも」で生きて死んでいこうと思う。
永訣の朝を再読したい衝動にかられ、原作も是非読みたいと強く思わせる力がありました。
追記:山が素晴らしかった。語彙力が足りなくて上手く言えないけど。主人公の故郷への想いをしっかり表現できている山だった。