「作者の体験と空想の断片が、監督3人の手を経て再構築され交錯する妙」ゾッキ 高森 郁哉さんの映画レビュー(感想・評価)
作者の体験と空想の断片が、監督3人の手を経て再構築され交錯する妙
竹中直人、山田孝之、齊藤工は世間的には俳優業がメインと認知されている(とはいえ竹中と齊藤には監督作があり、山田もプロデュース歴があるが)。そんな3人が大橋裕之の短編漫画集「ゾッキA」「ゾッキB」の実写映画化で共同監督を務め、しかもオムニバス形式ではなく、原作の8エピソードがゆるやかにつながる群像劇のような体裁の意欲作を完成させた。
「ぞっき」は、ひとまとめにして売買することを意味する。原作は未読ながら、大橋が子供の頃から漫画家として一本立ちするまでの体験や、折々に空想したこと、思いついたアイデアを雑記のように描き溜めたものだろう。いわば作者の体験と空想の断片であり、それが大橋の出身地であるロケ地の愛知県蒲郡市を舞台に再構築されたと知れば、たとえばコンビニの店内で旅の青年とある商品を手にする男子高校生の目が合うシーンなどに、大橋の2つの分身が時を超えて邂逅するような感慨を覚える。
本編を一見しただけでは3人の誰がどのパートを監督したか判別できないが、エンドロールに記載がある。参考のため以下に書き写しておくが、予備知識を入れずに観てもらうのが作り手の意図だと思われるので、このレビューは一応ネタバレありに設定しておく。
『石けんの香り』『アルバイト』『秘密』『父』は竹中が担当。『Winter Love』は山田が、『伴くん』『おっぱい』は齊藤がそれぞれ担当。『オサムをこんなうさんくさい道場に通わせたくありません』は三者が共同で監督したという。観た後では個々のタイトルがどのエピソードかだいたい見当がつくと思うが、題だけではちょっと分かりづらい『Winter Love』は松田龍平演じる青年が自転車に乗ってあてのない旅をする話だ。
派手さはないが、しみじみと味わい深い映画になった。肩書にとらわれずさまざまな表現に挑戦する3人に続く映画人が増えることに期待したい。