劇場公開日 2022年12月2日

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「宣伝文句のような単純な話ではなく、案外と奥が深い」ブラックアダム tomatoさんの映画レビュー(感想・評価)

3.5宣伝文句のような単純な話ではなく、案外と奥が深い

2022年12月2日
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ブラックアダムのキャラクターが、「アンチヒーロー」とか「破壊神」といったキャッチフレーズとは随分と異なることに、まず驚く。
「復讐」ではなく、自由を抑圧された民衆の「解放」こそが、アダムの行動原理なのであり、その点では、完全なヒーローなのである。
そもそも、息子が殺されたのは、アダムがそのパワーを譲り受けたからであって、彼は、息子の遺志を引き継いでいるに過ぎない。(後半に明らかとなる、こうした複雑な事情も、宣伝とは随分と異なる。)
そうしたこともあって、ブラックアダムとJSAの戦いからは、単純な勧善懲悪の価値観ではなく、MCUの「シビルウォー」のように、「自由」を重んじるか「秩序」を重んじるかといった価値観の相克のようなものが感じられて、案外と奥が深い。それ以前に、力を持っているだけで、それを脅威と見なしてしまうJSAの認識からは、米国の安全保障の考え方が透けて見えて、興味深かった。
その一方で、いつまでたっても誰が本当の敵なのかがよく分からないところは、物語が転がらない要因になっていて、いただけない。
最初はサブキャラと思われた人物が、実はラスボスであることが明らかになり、「えっ、これで終わり?」と思わせておいて、最後にようやくとそのパワーを発揮するのだが、長らくの「強大な敵」の不在が、物語の強度そのものを弱めてしまった感は否めない。
この作品は、冒頭から「シャザム」のスピンオフ的な位置付けにあることが分かるが、「スーサイド・スクワッド」ともクロスオーバーしており、エンドクレジットのオマケ映像にはDCを代表するスーパーヒーローも登場する。
「ジャスティス・リーグ」で頓挫したかに思えたDCのユニバース化を再構築するに当たって、その成功を占う試金石となる作品なのだろうが、今後、「アベンジャーズ」のサノスのような強敵が出現するのかどうかも含めて、まだまだ予断を許さないのではないかと感じてしまった。

tomato