劇場公開日 2022年7月1日

「エルヴィスが歩んだ道」エルヴィス yukikoNさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0エルヴィスが歩んだ道

2022年7月6日
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鑑賞方法:映画館

1977年8月某日。湯川れい子氏は、日本に滞在中のレノン夫妻にメンフィスのエルヴィスが亡くなった日の地元新聞を土産として届けた。ジョンは「スーパースターというのは、才能を持ったアーティストが才能を持ったマネージャーと出逢うことで生まれる。スーパーマネージャーとそこで食うか食われるか、殺すか殺されるかのせめぎ合いをしなければ生まれないんだよ。」「エルヴィスの場合はかわいそうにエルヴィスが先に死んでマネージャーのトム・パーカーが生き残った。僕たちの場合は、ブライアン・エプスタインが先に死んでくれた。だから僕がまだ生き残っているんだ」と語ったという。まさにこの映画の主題のひとつである。エプスタインはパーカーを師と仰ぎ、彼に様々なアドバイスを求めた。
バス・ラーマンは単なるミュージシャンの伝記ものにしたくなかったんだろう。エルヴィスは本人の意図とは関係なく、欧米における文化や価値観の変遷の大きな担い手となった。
そういうエルヴィスをパーカー大佐を語り部として描いたことは、少々説明的ではあるが、彼の戦略は成功している。
豪華な映像とカット割、今風にアレンジされた音楽。賛否分けれるところではあるが。エルヴィスの服やプリシラの服の再現度が高い。
エルヴィスは人種の壁をらくらくと超えていった。都合の悪い人達は、彼をバッシングした。キング牧師の演説を全て覚えていたという。事実はプリシラではない映画の共演女優と一緒にキング牧師の葬儀のTVを見て泣いた。アカペラで彼女の前でアメージング・グレイスを歌った。混乱しているエルヴィスを見て、パーカーは何もコメントを出すなと念を押した。TVスペシャルのリハーサル中にケネディが暗殺された。エルヴィスは、ギターを弾き、これから僕のすることを見てほしい。今こそ皆がひとつにならなければならない時だからと言った。
70年代の大掛かりなステージはその後のショービズ界に少なからず影響を与えていると思われる。もともと動きやすさから提案されたジャンプスーツは、アリーナ公演で映えるように鋲やラインストーンが散りばめられ、照明に映えた。
そんなエルヴィスを演じたオースティン・バトラーはジョン・トラボルタを彷彿とさせはするが、頑張っている。どちらかというとエルヴィス本人より男性的なルックスのため、前半は何か違うなと思う部分もあったが、後半の大人になり男っぽくなったエルヴィスには、思いの外似ている。
パーカーには似てないが、トム・ハンクスはいやらしい位うまかったが、ちとしつこい。
 またリトル・リチャードはゲイで有名だが、アルトン・メイソンは、その雰囲気も醸して最高だった。少年の時に見たアーサー・クルーダップ。蛇足ではあるが1976年頃にヨーロッパのファンクラブの会長がエルヴィスと会った際にあなたの目指したものは何だったんですかという質問に対するエルヴィスの答えは、「子供のときに見たアーサー・クルーダップが本当に格好良くて、いつかあんなになりたいと思ったんだ。それが僕の目標だったんだ」と答えた。エルヴィスは自分が成し得た事を本当の意味で理解していなかったのではないかと言われている。
 映画の質とは関係なくエルヴィスを見たい人にとっては、不満が残る。ステージをフルで見たいのに、パーカーのセリフが被る。パーカーの出番をもう少し減らしてもストーリーの本質は保てると思う。
一番盛り上がるという点では、ボヘミアン・ラプソディー宜しくハワイの衛星中継の舞台で終わればいいんだけど、それは許されない。
最後まで描くことでこそエルヴィスとパーカーの構図になるのだから。
1977年のエルヴィスの映像は残酷だが、そこには終始一貫して変わらない純粋無垢なエルヴィスがいる。あまりハイスピードでスターの座を駆け上がったエルヴィスは普通の若者が通る大人への階段を登れなかった。いくつになっても少年のようだったと言われている。それでも彼の笑顔は素敵だ。本人の名誉の為、このコンサートはピアノを弾いているから座っているのであって、他の曲は立って歌ってる。
そしてこの素晴しい歌声にエルヴィスの短くも長く辛い人生に涙する。
多分ファンが一番スツキリしないのはプリシラの描き方だと思う。生きているので忖度はしかないのだけど。
エルヴィスの崩壊の要因は母グラディスの死から始まったと言われている。そして古く悪質なマネージメント、最後はプリシラ・ショック。1972年2月のラスベガス公演にやって来たプリシラは空手教師のマイク・ストーンと一緒に暮らすためリサ・マリーを連れて家を出ると告げ、ボロ雑巾のようにエルヴィスを捨てた。このことにより破滅的な生き方に拍車がかかった。プリシラをグレイスランドに置き去りにして浮気していた本人も悪いが。新しい恋人が出来てもプリシラへの未練は断ち切れなかった。何故なのかは、わからないけど。
ボン・ジョヴィは武道館でハートブレイク・ホテルを、スプリングスティーンは代々木で日本のファンのためにと好きにならずにはいられないを、クィーンとモトリークルーは監獄ロックを日本演奏した。ライブを見るチャンスがなかつたレッド・ツェッペリンも胸いっぱいの愛をの間奏で、
メス・オブ・ブルースやパーティーなどエルヴィスの曲をちょいちょい入れてる。全てはエルヴィスにつながる。
エルヴィスは誰も歩いてことのない道を唯一人進んでいった。後の人たちは、その道を通り新たな道が続いている。
是非エルヴィスの通った道を見てくだい。

yukikoN
talismanさんのコメント
2022年7月22日

素晴らしいレビュー、拝読出来て嬉しいです。

talisman