「隠された「暗部」が作る物語の奥行き。」THE BATMAN ザ・バットマン すっかんさんの映画レビュー(感想・評価)
隠された「暗部」が作る物語の奥行き。
○作品全体
ゴッサムシティとそこで起きる事件、そして主人公であるブルースの秘密。その全てにある「暗部」の演出が面白かった。
フィルムノワールを意識した黒が支配する画面が作品の大半を覆い、街にも人にも影を落とす。事件そのものは謎解きの要素が饒舌すぎる印象はあったが、世界の仄暗さが劇場型犯罪の派手さを上手くコントロールしているように感じた。
暴力や犯罪に澱む街の暗部から始まり、バットマンの過去の暗部に踏み込んでこんで行く展開も良い。街のヒーローであるはずの存在も、ゴッサムシティと同様に暗部を抱えた存在であることを示すことで、漂白されたヒーロー像と明確に一線を画している。ブルース自身が持つ正義心の野太さも相まって、単なる「アンチヒーローもの」というジャンルではない雰囲気を纏っていた。この雰囲気づくりはやはり、暗部を多く持った画面の質感があったからだろう。
眩しいほどの正義感を魅力的にさせるのは、不確かで陰鬱とした過去の暗部の演出、そしてそのコントラストだ。
○カメラワークとか
・「ぼかし」の演出が多彩。主観視点の「ぼやけ」や明度に慣れない視界の不良、雨が流れるフロントガラス、汚れたグラス、窓ガラス…事件の真相に近づこうとするシーンで印象的だった。掴みづらい真相や上述した暗部を意識させる演出。一方でブルースの父の真相に触れかける時には、その話をするファルコーネとブルースを切り返しで見せる「よくあるカメラワーク」で真相を騙すように裏をかいていたりするのがまた面白い。
・アクションはブルースがセリーナを助けに行くシーンでマズルフラッシュを使ったアクションシーンがカッコよかった。既視感があったけど思い出せず。
○その他
・痩せこけて目の周りに影を落とした長身の主人公、カッコいいよなあ。『ガングレイヴ』のブランドン・ヒートとか『鬼哭街』の孔濤羅とか。どれも無口なタガが外れたタイプの主人公だ。
・劇場型犯罪の派手さが逆に滑稽になってしまってる部分はいくつかあったなあ。「翼のあるネズミ」を推理するシーンなんかは、なぞなぞに一生懸命になって走り回ってるようにも見えたし、犯人とテキストチャットでやりとりするところは画面だけ見せてたけどカタカタ「どういう意味だ??」とかタイプしてるバットマンとかちょっと滑稽かなあ…と思ったり。
・『エレンの歌 第三番』を歌う悪役、『フルメタルパニック セカンドレイド』以来で見た。他の作品にもいそう。