「歴代で一番好きなバットマン」THE BATMAN ザ・バットマン マルホランドさんの映画レビュー(感想・評価)
歴代で一番好きなバットマン
数年前「バットマン・フォーエヴァー」を見ていた時、同じくリドラーが悪役だったが、その時に見て思ったのが「バットマンの推理劇が見てみたい」というのが率直な感想だった。それから数年後、まさにぴったりな作品が今作だったように思う。
バットマンと言えば悪役をぼこぼこにするイメージだが一つの呼び名がある。それは「世界一の探偵」という名前だ。今回の悪役がリドラーだということもあり、ノワール物で脚色されているが何年も作られているバットマンシリーズで昨今ではこうした推理劇の作品はあまりなかったのではないだろうか。
The batmanではキャラクターの造形を違った見せ方で脚色している。例えばバットマンの初登場時、甲冑のような重い足音が響いてきて、真っ暗闇の空間からぬっと「出現」してきたり、ペンギン、キャットウーマン、リドラーなどのメインキャラは本当にその辺にいそうな「普通の人間」として配置されている。名前を明かさなかったらただの一般人のようだ。ブルースがバットマンのコスプレをしてバイクに乗るのではなく、普通のライダーが普通のバイクに乗っているような様を見れるのも新鮮で、バットマンコスで捜査現場を視察したり謎を解いていく様を見て「こういうバットマンが見たかった!」と思わず膝をぺチンと打ってしまった。
また作中の世界観の造形も目を見張るほど素晴らしく、ゴッサムシティの隅から隅までを散策しているような気になれるのだ。これまでゴッサムはとても暗いイメージしかなかったが随所に明るい部分がちゃんとあり、これまで以上に生活感を感じられた。今作はただ暗いだけではなく要所要所でちゃんと明かりを取り入れて色の明暗をつけるのもかなりエッジが効いた作りこみだったと思う。
ペンギンが経営しているクラブなどは今まで見れなかった名所だと思うし、バットシグナルを合図に集まるビルから見えるゴッサムの夕焼け、クラブでのペンギンの部下との殴り合いや暗闇でのマズルフラッシュを交えた格闘戦、終盤のスタジアムでの戦闘及び、フレアを焚いて人々を助け、導くシーンなどバットマンがいる所は自然と明かりがついてバットマンの存在が輝いているように見えた。
バットシグナルが夜空に照らさせるとき、チンピラはおびえて逃げるシーンなどがあるが、ちゃんと抑止力として働いているのも魅力的で、まるでゴッサムシティにおけるお天道様のようでここも気に入っている場面だ。なんだかこれまで以上にバットマンが恐怖を与えているというメッセージも伝わってくる。
また、バットマン二年目のブルースは己を「リベンジャー」と表し悪人に鉄槌を下すがバットマン並びにキャットウーマン、リドラーもゴッサムという腐敗した大人たちの被害者でもあることがわかる。「親の罪は子に報いる」と劇中でも流れているが過去が未来に復讐するというメッセージを見たときなかなかうまい言葉だなあと思った。リドラーというマッチがゴッサムの闇を暴くシナリオは先が読めないスリリングさで本当に脚本が上手い。しかしこれはブルースの成長劇もちゃんと並行して描いている。最初は確かにブルースは「リベンジャー」だったかもしれない。しかしそんな彼がバットマンとしてこの街を見守ることで力なきものの希望にはなっていたのではないだろうか。その証がバットシグナルであり、どこからともなく暗闇から現れる「夜の騎士」としての彼だと思う。暗闇から出る彼が終盤のがれきに挟まっている民衆の前には明かりを焚いて現れる。その人々を引き連れて先頭に立つさまはまるで宗教画のような神々しささえ感じられた。洪水が街を覆う中、巨大なスタジアムの天井にぶら下がる漏電したライトを防ぐために彼は身を投じた。そこでリベンジャーとしての彼の人生は終わって、起き上がるとき「バットマン」として生まれ変わったのだと思う。市民のために身をささげた彼は救世主だと思うし、ゴッサムにはなくてはならない希望なのだとあの瞬間、確信した。