「親父と娘たちと、家族一丸のキングプラン。…ウィルのカムバックプランは…?」ドリームプラン 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
親父と娘たちと、家族一丸のキングプラン。…ウィルのカムバックプランは…?
ウィル・スミス、悲願のオスカー!
2015年、入魂熱演作『コンカッション』がノミネート落選し、“ホワイト・オスカー”を変えようと動き、現在のアカデミー賞の変革のきっかけになったというウィル。
そんな彼が遂に受賞を果たし、本来なら惜しみない称賛に包まれて然るべきなのだが…、
皆さんご存知の“アノ事件”。
これについては後々触れるとして、まずはひとまず置いて、作品の感想を。
スポーツにも疎い私だが、“ウィリアムズ姉妹”の名くらいは聞いた事ある。
全米屈指の女子テニスプレーヤー、ビーナスとセリーナの姉妹。
テニス史に残る輝かしいプレー、優勝歴、成績の数々。
生まれや育ちは貧しい。そんな彼女たちが如何にして見出だされ、アメリカン・ドリームを手にしたか。
彼女たちのサクセス・ストーリーであり、に非ず。
彼女たちを育て鍛えた、これはほぼほぼ父リチャードの話。
子供の才能にいち早く気付くのは、やはり身内が多い。
同じ女子テニスで、シャラポワもそう。娘の才能に気付いた父が、レッスン代やコーチ代を仕事を幾つも掛け持ちして稼ぎ、それに応えるようにシャラポワは訓練に励み、メキメキ上達。栄えある大会で遂に優勝し、彼女が真っ先に駆け寄り抱き締めたのは、自分を信じ尽力してくれた父。
何かの番組で紹介され、感動したのを覚えている。
このウィリアムズ親子もきっと…。
確かに家族の感動のサクセスとアメリカン・ドリームなんだけど、ちょっと違う。
親父が“星一徹”といい勝負。
テニスの専門知識はナシ。専門書や試合のビデオなどを見て、独学。
それで娘たちにレッスン。娘たちにそもそも才能あったのか、親父の指導の賜物か、才能がどんどん開花していくのだから、どちらにせよ大したもんだ。
プレーだけではなく、しっかり勉強も両立させる。人としての礼儀も。
子供はこの二人を含め計5人。妻オラシーンも協力し、家族一丸でテニスの世界で勝利する。
それはただの夢や目標ではない。そう確信する自信と、リチャードがしっかり道筋立てた“プラン”によって実現出来る自分の人生。
これだけなら立派な親父。人格者。ところが…
とにかく、面倒臭い性格で、でしゃばり。
娘たちのコーチを探す為に、アポも取らず、突撃訪問&直談判。
しかもこちらの要望だけを猛アプローチ。推して推して、推しまくる!
レッスンやコーチ代は無料で。娘たちがプロになってからの出世後払い。
娘たちには謙虚であれと厳しく躾るが、当の本人は相手が誰であろうと対等に。媚びも物怖じもせず。相手が無礼な言動を見せたら、こっちもそれ相応の対応を。
娘たちへのレッスンはなかなかスパルタ。雨の中でも訓練。そのせいで仲の悪い近所から通報やトラブルしょっちゅう。
特に彼の言動の最たるは、レッスン中。説き伏せて名コーチに娘たちを見て貰う事が出来たのに、レッスン中も口出し。果てはコーチと言い合いになるほど。
やっと見つけたコーチに、あんたのやり方は間違ってる。俺が正しい!
娘たちのプレースタイルや練習や試合もこちらで管理。
じゃあ、何故コーチを雇った…?
あまりの俺様主導に、ちとゲンナリ…。
それだけ熱い男という事でもある。
娘たちの為なら、一切妥協しない。
周りがギャーギャー言うのなら、言えばいい。ほざいてろ!
彼の原動力。
何よりも、家族を守る。
幼い頃、大人たちに暴行受けた時、父は助けてくれなかった。
ああはなりたくない。俺は家族を守る。
そして、社会からも。
白人たちの差別、偏見。白人たちのスポーツの世界に、黒人が飛び込んでいく。
負けてたまるか。屈してなるものか。
白人からだけの迫害ではない。
治安の悪い地元。同じ黒人のヤンキーが絡んでくる。
娘たちにちょっかい。リチャードには暴力まで…。
さすがに忍耐の限界を突破したリチャード。こちらも“暴力”で対抗しようとした時、彼の目の前でヤンキーの一人が…。社会の不条理、残酷。…いや、これが現実。
リチャードは一見面倒臭そうだが、多くと闘い、最も大切なものを守っているのだ。
リチャードを美化するだけの作品ではない。
時に彼の行き過ぎた言動を問い掛ける。
コーチからのアドバイスを無視し、勝手に娘たちの訓練のスケジュールや試合すら放棄する。誰もが通るジュニア世界すらパス。
ありきたりの道を進ませ、ありきたりのオチにさせたくない。俺の娘たちは特別。
確固たる意思だが、頑固高慢でもある。
要は、人の話を聞かない。
それが原因でコーチや娘たち、妻と度々衝突。
娘たちを思ってるように見えて、実は自分の強欲。
自分がただ周り負けたくないから。
娘たちは父親の言う事を聞く事が多い。コーチはたじたじ。
面と向かって言えるのは、妻だけ。
お互い一歩も引けを取らず、同じくらい家族の事を思ってるので、夫婦喧嘩は迫真。
それだけ腹を割って言い合える夫婦であるという事でもある。
時々やり過ぎ言い過ぎとも思うが、リチャードが強い信念を持った男というのに異論はない。
テニスだけじゃなく、勉強や人としての在り方を何より怠らせない教育は素晴らしいと思う。
家族への思いや愛が熱いからこそ、厳しくもなるのだ。DVのような抑えつけとはまるで違う。
自分や家族に厳しく、他人にも厳しい。
白人エージェントやオーナーのちょっとした言い回し。
あなたの娘たちは、信じられないほど凄い。
誉めてるようだが、偏見的な言い方でもある。
“信じられない”とは、信じてなかった者が信じ難いものを見せた時に言う。つまりは白人のコイツらは、黒人の娘たちの事を信じても期待してもなかったという事でもある。白人の娘にはそんな事言うだろうか…?
そんな奴らに、俺の娘たちを任せられない。
響く台詞もあった。
破天荒な親父だが、いつしか魅せられていた。
ウィル・スミス、キャリアベストの名演!
一筋縄ではいかないキャラ、苦渋の体現、熱い愛情深さ…。
元々はミュージシャン。映画の世界に入り、大人気スターへ。エンターテイナーであり、ハリウッドを代表する演技派に。『バッドボーイズ』でウィルを認識して、今回のオスカー受賞に至るまでずっと見てきて、とても感慨深い。
妻役アーンジャニュー・エリスの好助演。時々暴走する夫を押し留める、ウィルに引けを取らないパワフルな見せ場も多々。
ビーナスとセリーナを演じたサナイヤ・シドニーとデミ・シングルトンはトレーニングを積み、リアルな試合も披露。ひょっとしたら一番の難役かもしれない。
家族で歩み始め、ビーナスのプロデビュー。
遂にここまで辿り着いた。ここまで来た。
ここに来るまでどれほどの苦難があったか…。
それに比べたら。取るに足らない。
とことん楽しみ、やり抜き、自分の実力と自信を見せきるだけ。
高額オファーなんて後から。まずは、実力を魅せる!
自信と期待は間違いではなかった。
信じられないではない。信じていた。
怒涛の快進撃。
…が、本作は実話。最後は周知の通り。
悔しいのは悔しい。
だけど、自分を責める事はない。
家族が、皆が、誇りに思っている。
試合はまだ、始まったばかりだ。
家族一丸となっての名プレー。
娘たちの、リチャードの、家族の勝利。
キングプラン。
さて、アノ事件。
キャリアベストの名演を魅せ、栄えある賞にも輝いた矢先、まさかの崖っぷち…。
ウィルのキャリアに大きな傷が付いた事は確かだが、これでウィルのキャリアが終わり…になんてなって欲しくない。
暴力に出てしまったウィルの行動を肯定は出来ない。
劇中で、暴力に耐え、暴力に出ようとして別の暴力を目の当たりにして、思い留まるシーンがあるのに、何と言う皮肉…。
暴力はいけない。それが行き過ぎれば、強大な力で他者を攻撃し、支配にも繋がる。
あの時、別の手段は無かったのだろうか…?
ならば、言葉の暴力はどうなのだろう…?
知らなかったとは言え、持ち前のブラック・ジョークとは言え、他者の容姿をコケにし、貶めるのは、手を出すのと同じくらいの暴力だと思っている。
自分や周りは面白いかもしれないが、言われた本人の気持ちを少しでも考えた事あるだろうか…?
ジョークなんだから、笑って流してよ…ってか?
アカデミー賞会員を辞し、今後10年アカデミー賞への出席も禁じられたウィル。せっかくオスカーに輝いたのに、今後暫くはノミネートも難しいだろう。それどころか、ウィルを逮捕すべきだとか、ウィル批判の声は厳しい。
それに対し、あんなアクシデントにも関わらず、滞りなくプレゼンターを務めたクリス・ロックには、寧ろ称賛の声が寄せられているとか。
劇中さながら家族を守る為暴力に出てしまったウィルを全面的に擁護は出来ないが、ウィルがこれだけ罰を食らってるのに、元々の発端、礼儀に欠けた発言をしたクリス・ロックには何のお咎めナシというのが納得出来ない。双方、痛み分けならまだしも…。
これも日本的な感情とアメリカ社会の文化や価値観の違いなのだろうか…?
いずれにせよ、何とも後味の悪い一件であった…。
ウィルは10年も出禁なんですか?その結末は知りませんでした。
彼のスピーチに会場はスダディングオベーションだったのに?
いかなる理由があっても暴力は肯定しない、というようなコメントをアカデミーは出しましたし、確かに暴力を認めてはいけません。
でも、おっしゃる通りクリスも相応の処分を受けるべきですね。
アカデミー自体に、脱毛症という病に苦しむ人への理解が欠落しているのでしょう。