「実話を上手に濾過した王道の成功物語」ドリームプラン ニコさんの映画レビュー(感想・評価)
実話を上手に濾過した王道の成功物語
まさに王道のアメリカンドリームの物語。ウィリアムズ姉妹が原石だった頃、根強い黒人差別やビジネスのために寄ってくる大人たちの欲から、彼女たちの夢と人生を守ろうとする父親の奮闘と暖かい家族愛が結実する展開に、思わず胸が熱くなった。
もちろん、実話に基づく物語と銘打っているとは言え、実際の父リチャードは映画そのままの印象の人物とは限らない。それに、作中の描写だけで見ていても、見方を変えればリチャードが時にプロのアドバイスまで蹴ってひたすらに自分の「プラン」を押し通す話でもあり、一歩間違えれば親の夢を子に押し付ける毒親にもなりかねない。原題「King Richard」のとおり、王様リチャードが家庭に君臨する話という見方も出来る。
物語ではローティーンのヴィーナスを燃え尽きさせないために、リチャードが数年試合をさせないエピソードがあるが、そもそも子供の資質によっては、父親に鍛えられている段階や、この数年の実戦ブランクで駄目になってもおかしくない。
彼のそんな行動が結果的に正しいものになったのは、幸いにもヴィーナスとセリーナが父の熱意を受け止めきれるレベルでテニスが好きで、結果を出す能力を持っていたからだ。
だから、サクセスストーリーとしては感動したものの、観終わった後少し複雑な気持ちにもなった。これは父の熱意と子の能力のラッキーなマリアージュの物語ではあるが、このような信念のある父親は素晴らしいと言って全面的に讚美すべき話かというと、それはちょっと違う気がしたからだ。
物語では最初から家族はコンプトンに住んでいるように描かれていた。しかし実際はヴィーナスがまだ幼い頃まではロングビーチに住んでいた。全米屈指の治安の悪い地域コンプトンにわざわざ転居した理由をリチャードは自伝でこう書いている。「コンプトンに家族を連れて行ったのは、偉大なチャンピオンはゲットーから生まれると信じていたから」。妻は猛反対したそうだ。作中でも治安の悪さを表す描写があり、リチャードは娘を守ろうとしていたが、あれは現実では彼自身が選んだ環境だ。そういった、物語の印象が少し変わるような事実もある。
ただ、成功の保証がない物事にあそこまで親子ともども人生を賭けられる潔さは、いい悪いは別にしてすごいと思う。そんな挑戦の中で、勉強をおろそかにしない点はよかった。
ドキュメンタリーではないので神経質に断罪する必要はないが、映像作品としてまとめる限り、描く事実の取捨選択は必ずある。濾過され、監督のメッセージが混ぜられた物語に素直に感動した上で、モデルになった人物の実際のエピソードを調べてみるのもまた違う意味で面白い。
水を差すようなことを書いたが、本作ではリチャードを全面的に美化したわけではなく、彼のちょっと危うい行動や、子離れ出来ない一面、姉妹に関わる大人に対する扱いづらい態度など、ある程度多様な面を描いている。
リチャードとやり取りする周囲の人間が面倒に思う気持ちも分かるし、一方彼が昔から受けてきた差別を念頭に、自分自身の論理で娘を守ろうとする気持ちもよく伝わってきた。社会人としては面倒くさいけれど、娘への愛情に裏打ちされた頑固さとして描かれているから憎めないし、妻に諭されて娘の考えを尊重するようになる場面が、それまでの頑固さとの対比でより生きたものになった。
また、試合のラリーの場面はカメラワークなどが工夫されていて、本当に緊迫した試合を見ているような迫力があった。
それにしても、アメリカは成功の結果が本当にドリームだなあ……。
そうなんですね。自分からコンプトンに引越ししてたとは、、!
貴重な情報ありがとうございました。m(_ _)m
いろいろな情報を確かめる事から見えてくる事がありますよね。(^^)
しかし全ての事において、それをやり遂げる事は出来ないし、
勘違いから偉大な業績を成し遂げる人もいたりして、、
何が良いかは人それぞれで分かりませんが、自分なりに信念を持って
ベストを尽くしたいものです。^ ^