劇場公開日 2021年10月15日

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「壁画を見上げるかのようなスペクタクル映像体験」DUNE デューン 砂の惑星 moviebuffさんの映画レビュー(感想・評価)

4.0壁画を見上げるかのようなスペクタクル映像体験

2021年10月17日
PCから投稿

デューンはその画面の隅から隅まで正に超大作と言うに相応しい作品である。そのスケール感で言えば、アラビアのロレンス(恐らくヴィルヌーヴは人物と砂漠の対比のためにこの作品を研究していると思う)、地獄の黙示録、2001年の宇宙の旅といった映画史に残る超大作と肩を並べるスケール感である(ちなみに映画中、これらの作品のオマージュシーンもちらほらある)。

今作で監督ヴィルヌーヴがチャレンジしているのは、壮大な壁画を見上げるかのような映像の宗教的とも言えるレベルの「巨大感」である。広大な砂漠に映る人影、超巨大宇宙船から飛ばされる豆粒のような小型機、砂漠の星に建造された、ブレードランナーのオープニングを思い起こさせるような巨大都市。これらの小さく配置された対象物と広大な背景の対比の落差が大き過ぎて、携帯やパソコンの画面では、全てを一瞬で捉えられない。衣装やセットのディティールもだ。(そしてハンスジマーの新境地ともいえる、これまた壮大なサウンドトラックも)。実際私はパソコンの画面で予告編を見た際には、シンプルな画面構成だな、とさえ思っていた。なぜなら、その画面の細部の情報をパソコンの画面では全て把握し切れていなかったからだ。

そう、この映画はIMAXクラスの巨大画面で見た時に最も「映える」ように最初から設計されているのである。だからこそ、ヴィルヌーヴはコロナ禍のアメリカでのワーナーブラザーズの「配信」という決断に怒り狂ったわけだ。この映画の映像は通常のドラマにおける、物語を説明するためにある記号的な絵とは情報量が異なる。最初から最後までスクリーンの絵に見入り、埋没しているような感覚を味わう事が重要だからだ。この映画を見て、物語のテンポが遅く退屈だと言っている人は、筋を追う事に関心が向かうあまり、この映像のディティールや美しさを味わい切れていないのではないだろうか。(興味深いのはその「遅い、退屈」といった批判こそ、まさしく過去に2001年宇宙の旅やブレードランナーが受けてきた批判である。今の時代でさえも、人々は映像そのものを味わい、映画の世界に浸る事よりも、物語の展開、台詞に引っ張られた映画鑑賞をしているのだ)。

もちろん、原作が古典である故、ストーリーやアイデアが色々な作品で既に引用されていまっていて若干新鮮みに欠ける事や、これからいよいよという所で映画が終わってしまう事に不満を持つ人がいるのも理解できる。だからこそ、その欠点を相殺し、SFの古典を蘇らせるために、このような壮大で重厚な映像とサウンドが必要だったと思うのだ。

映画ファンとしては今の時代にこれだけの商業大作で自分の理想の映画を妥協せず、作りあげたヴィルヌーヴの力量を評価したい。セットデザイン、コスチューム、キャスト、撮影、全てが洗練されている。ヴィルヌーヴの得意とする静かに静かに緊張感を積み上げていく演出と、その壮大なスペクタクルシーンにより、鑑賞中、息をするのも忘れるほど圧倒されていた。大作のため、2作目を制作するには今作のヒットが欠かせないそうだが、是非とも実現してほしい。完結してこそ本作の本当の評価も定まる事になると思う。

moviebuff