「【オーニソプター】」DUNE デューン 砂の惑星 ワンコさんの映画レビュー(感想・評価)
【オーニソプター】
“二つの有力な家があって、敗れた側の若者が追放されるが、追放された先の人心を掌握、人々を組織化して蜂起、ついには政権を奪還する”なんて云うと、日本人なら源頼朝を思い浮かべる人が多いように思う。義経や義仲の助けはあったが、やっぱり頼朝だと思う。
まあ、多くの人がすでに理解している通り、「DUNE」は、そうしたタイプの物語だ。
原作はSF大河小説の金字塔「砂の惑星」だが、もう40年近く前に同様にデヴィッド・リンチが映画化し、批評家の酷評の的となり、そもそもこの原作を映画にするのは困難なのだと信じ込まれるようになってしまった。
しかし、今回は最新の映像技術を駆使して、やってくれました!
もともとデヴィッド・リンチのキャラクターや衣装デザイン、屋内空間デザインなどは、非常に斬新で、カルト的なんて嫌味を言う人はいたけれども、僕は結構気に入っていた。
今回は、キャラクターや衣装デザインは、物語に重厚感を持たせるためか、派手さや斬新さは抑え気味だが、あのトンボ型の乗り物オーニソプターを目撃した時点で、僕は満点をあげることに決めてしまっていた。
デヴィッド・リンチ版のオーニソプターがダサかったこともあるが、近年の研究で、トンボの羽の形状や模様は非常に飛行に適していることが分かってきていて、そんな情報をアップデートしたんだろうなと想像して嬉しくなったのだ。
この原作「砂の惑星」については、有力な家、当主、後継ぎ、妾、お守り役、右腕、愚鈍に思える皇帝、預言者、裏切り者など、シェイクスピアやギリシャ神話の戯曲のように重層的で重厚感はあるが、人物設定は少しステレオタイプだなと思えるところもある。
映画については、デヴィッド・リンチ版は、家同士の確執や、皇帝の策略、裏切りなどが中心で、砂漠の民フレメンについては深くは描かれていなかった。
だが、ドゥニ・ヴィルヌーブ版では、前後編に分けながらも、物語の最重要な部分として描こうとしているところが伺えて、次に繋がる点として非常に良かったと思っている。これは原作の意図にも沿っているように感じる。
あくまでも原作を読んだ限りだが、ポールがフレメンの救世主となることについては、デヴィッド・リンチ版のレビューでも書いた通り、イスラム世界のムハマンドを参考にしたんじゃないかと考えたりしている。
砂漠の民、キリスト教・ローマ世界の抑圧、キリスト教やユダヤ教から学んだ一神教や救世主の考え方、新たな神の創造と独自の宗教文化世界の構築と抵抗など類似点は多い。
今回の「DUNE」は前編で、スペクタル感はやや少ないと感じるかもしれないが、この原作はもともとスペクタクル感も満載で、後編は、そうした手に汗握る要素も増えてくるのではないだろうか。
正直、砂歩きはちょっと滑稽だが、ヴォイスや、ハンターシーカー、巨大な砂蟲、スパイス・メランジ採掘船とキャリオール、耳で水を集めるネズミのようなムアディブも、本当に印象的だ。
前編が興行的に不調だと、後編が作られないかもしれないといった穿った見方もあるらしいが、そんなことは言わないで欲しい。
それに、公開初日、2日目とレビュー数は007NTTDみたいな盛り上がりを見せている。
それでも、映画を観てフラストレーションがたまったり、後編が気になる人は、新訳版の小説を読んで、想像力を駆使して感じてみてはどうかと思う。
このドゥニ・ヴィルヌーブ版を観て、あらすじが中心になってしまったデヴィッド・リンチ版を観るより良いと思った。でも、デヴィッド・リンチは好きな監督です。
前編でもフレメンの女性が話していたスパイス・メランジのために、水の豊富な惑星になることを諦めたことなど、現代にも通じる環境を想起させる要素もあるし、ポールや母親、これから生まれる妹がどうなるのかも見逃せないところだ。
後編に対する期待は高まるばかりだ。