「浮かび上がる悪」悪の偶像 近大さんの映画レビュー(感想・評価)
浮かび上がる悪
殊に映画などで描かれるクリーンな議員には敵や問題が多い。
政敵、身内の裏切り。家族の問題。本作の場合、後者。
次期知事選出馬も期待されるほど人気の市議会議員のミョンフェ。
ある夜帰宅すると、息子がひき逃げ死亡事故を起こした事を知る。
苦渋の決断で明るみになる前に、遺体を現場に遺棄し、息子に自首させ、自身も責任を取って出馬を断念。
これで全て事なき終える筈だった…。
被害者の父、ジュンシク。
やり場のない悲しみと怒りをミョンフェら加害者にぶつける。
そんなジュンシクが思わぬ言葉を発する。
「嫁はどうした!?」
嫁…?
被害者には妻リョナが居たのだ。
事件当日も一緒だったという。
ジュンシクはリョナを捜す。
調べる内に、リョナが妊娠している事を知る。
身を案じ、捜し出して、無事でいてくれたら。
一方のミョンフェにとっては…。
完璧に隠蔽した筈だった。
そこへ突然現れた“目撃者”。
またしても窮地に立たされる。果たしてそれは、息子の身か、自分の政治的立場か。
一刻も早く見つけ出さなくては。
ありがたい事にこういう時、政治家の周りにはその筋の連中が群がってくる。
見つけ出し、そしてその時は…。
加害者の父と被害者の父。
一件のひき逃げ死亡事故が二人の父親の運命を交錯させ、狂わす…。
ハン・ソッキュとソル・ギョングの韓国2大名優のケミストリーも素晴らしい。
個人的には、ジュンシク役のギョングの哀愁漂うやるせなさに一票投じたい。
平凡な一庶民ながら、自分の足でリョナの行方を捜すジュンシク。
クリーンなイメージは何処へやら、何をしてでもリョナを捜すミョンフェ。
先に見つけたのは、ミョンフェ。
再び決断迫られる。
身の保身か、それとも…。
選んだのは、彼の中にはまだ、罪悪感はあった。
ジュンシクもリョナと再会。
ジュンシク自身も事故当日の事を調べ、リョナの証言から不審を募らせ、これは単なる事故じゃなく隠蔽含みの殺人だと確信する。
が、ジュンシクには弱みが。
リョナは不法滞在者。現在収監中で、送還されてしまう。
これを何とか出来るのは“政治的な力”…。
ジュンシクはミョンフェが政治の世界にカムバックする為に一肌脱ぐ手伝いをする事に。
例え不条理な事が起きても、弱者は強者の前に膝を屈するしかないのか…?
加害者の父と被害者の父が対する話と思っていたら、
不条理な格差社会や、ダークで濃密で不穏なサスペンス・ミステリーも盛り付け。
また中盤から、ある人物の存在が非常に大きくクローズアップされてくる。その謎、過去、周囲で起きる不審死…。
ハン・ソッキュとソル・ギョングの二人に圧倒される筈だったのに、その人物の怪演に戦慄させられてしまったほど…!
たった一件のひき逃げ。
…いや、そうではない。
人が死んでいるのだ。
二人ともう一人の心の中を悪を浮かび上がらせる。
それは産まれ持った元々のものか。
悲しみからの凶行からか。
それすら利用してのし上がるのか。
現実か、成れの果てか、偶像かーーー。